水道水質検査における同一カラムを使用した分析効率化の検討 ~フェノール類、ハロ酢酸類、ホルムアルデヒド、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ジクロロアセトニトリル、抱水クロラール~
MSTips No.325
1. はじめに
水道水質検査において、同一カラムを使用して複数の項目を測定する事による分析の効率化について検討を行った。対象とした項目は、水質基準項目のフェノール類、ハロ酢酸類(クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸)、ホルムアルデヒド、水質管理目標設定項目のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ジクロロアセトニトリル、抱水クロラールの計6項目で、ジクロロアセトニトリルと抱水クロラールについては同時分析が可能なため、実質5種類の測定を同一カラムにより実施することとした。
カラムはジーエルサイエンス株式会社のInertCap 1MS(長さ30m、内径0.25mm、膜厚1μm)を使用し、GCオーブンの昇温条件のみ変更することで全項目の測定に対応した。検討の結果、全ての測定において、検量線の直線性と定量下限における再現性について良好な結果が得られたので本報において紹介する。
1. 1. 測定条件
各項目を測定する際の測定条件をTable 1に示した。前述の通り、使用するカラムは同一で、GCオーブンの昇温条件のみ変更することで各項目の測定に対応した。尚、MSのSIM取り込みにおける各分析対象成分のモニターイオンは、「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(→以後、告示法)」及び「水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について(→以後、通知法) 」記載の値を使用した。
Table 1. Measurement conditions of each item
Parameter | Value | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
GC | Column | GL Sciences Inc. InertCap 1MS, 30m×0.25mm id, 1μm film thickness | ||||
Column flow | 1mL/min | |||||
Oven temp. | Phenols 70°C for 1min, o 280°C at 15°C/min, hold for 1min |
Haloacetic acids 40°C for 8min, to 250°C at 15°C/min, hold for 3min |
Formaldehyde 50°C for 1min, to 280°C at 15°C/min, hold for 4min |
Di(2-ethylhexyl) phthalate 50°C for 2min, to 180°C at 20°C/min, to 260°C at 5°C/min, hold for 10.5min, to 280°C at 10°C/min, hold for 5min |
Dichloroacetonitrile, Chloralhydrate 35°C for 3.5min, to 100°C at 15°C/min, to 250°C at 20°C/min, hold for 3min |
|
Inlet temp. | 250°C | |||||
Injection mode | Splitless | |||||
Injection volume | 1µL | |||||
MS | Interface temp. | 230°C | ||||
Ion source temp. | 230°C | |||||
Ionization current | 30µA | |||||
Ionization energy | 70eV | |||||
Acquisition mode | SIM |
2. フェノール類
2. 1. 測定方法
告示法、別表第29に従い、精製水500ml に濃度が0.5,1,2,5μg/Lとなるように標準品を添加し、固相抽出により100 倍に濃縮し、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)による誘導体化処理後、GC/MSで測定した。
2. 2. 測定結果
フェノール類は、2-クロロフェノール、4-クロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノールの6種類が対象となり、各成分をフェノールの量に換算した合算値として5μg/Lが基準値となる。基準値の1/10である0.5μg/LのSIMクロマトグラムと2,4,6-トリクロロフェノールのS/N値をFigure 1に示した。

Figure 1. SIM chromatograms of each phenol at 0.5μg/L
フェノール類は合算値としての処理になるため、個々の成分については0.5μg/Lを下回る濃度での検出能力が望まれる。フェノール類の中で検出感度が最も低いのは2,4,6-トリクロロフェノールであるが、今回の測定において該当ピークのS/Nは100以上であり、0.5μg/L以下の検出についても十分に可能と言える結果であった。
各フェノール類の検量線と0.5μg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 2とTable 2にそれぞれ示した。検量線の直線性については、全てのフェノール類について相関係数が0.999以上であり、定量下限濃度である0.5μg/Lにおける定量値の変動係数も5%以下と良好な結果が得られた。

Figure 2. Calibration curve of each phenol
Table 2. Coefficient variation of each phenol at 0.5μg/L
Compound name | Quantitation value (μg/L) | C.V. | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | ||
Phenol | 0.542 | 0.539 | 0.537 | 0.535 | 0.535 | 0.55 % |
2-Chlorophenol | 0.577 | 0.576 | 0.575 | 0.572 | 0.572 | 0.40 % |
4-Chlorophenol | 0.543 | 0.540 | 0.537 | 0.534 | 0.533 | 0.77 % |
2,6-Dichlorophenol | 0.591 | 0.588 | 0.587 | 0.586 | 0.584 | 0.44 % |
2,4-Dichlorophenol | 0.584 | 0.592 | 0.591 | 0.589 | 0.589 | 0.52 % |
2,4,6-Trichlorophenol | 0.591 | 0.598 | 0.598 | 0.592 | 0.594 | 0.55 % |
3. ハロ酢酸類
3. 1. 測定方法
告示法、別表第17に従い、精製水50ml に濃度が2,8,20,40μg/Lとなるように標準品を添加し、溶媒抽出により10倍に濃縮し、ジアゾメタン溶液による誘導体化処理後、GC/MSで測定した。
3. 2. 測定結果
ハロ酢酸類の基準値は、クロロ酢酸が20μg/L、ジクロロ酢酸とトリクロロ酢酸は30μg/Lである。基準値の1/10以下の濃度である2μg/LのSIMクロマトグラムと各ハロ酢酸類のS/N値をFigure 3に示した。

Figure 3. SIM chromatograms of each haloacetic acid at 2μg/L
各ハロ酢酸類の検量線と2μg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、Figure 4とTable 3にそれぞれ示した。検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であり、定量下限以下の2μg/Lにおける定量値の変動係数も5%以下と良好な結果が得られた。

Figure 4. Calibration curve of each haloacetic acid
Table 3. Coefficient variation of each haloacetic acid at 2μg/L
Compound name | Quantitation value (μg/L) | C.V. | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | ||
Chloroacetic acid | 2.236 | 2.195 | 2.179 | 2.219 | 2.091 | 2.6 % |
Dichloroacetic acid | 2.111 | 2.109 | 2.086 | 2.097 | 2.064 | 0.9 % |
Trichloroacetic acid | 2.148 | 2.131 | 2.113 | 2.100 | 2.067 | 1.5 % |
4. ホルムアルデヒド
4. 1. 測定方法
告示法、別表第19に従い、精製水50mlに濃度が5,10,20,50μg/Lとなるように標準品を添加し、ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン(PFBOA)溶液により誘導体化、溶媒抽出により10倍に濃縮後、GC/MSで測定した。
4. 2. 測定結果
ホルムアルデヒドは、80μg/Lが基準値である。基準値の1/10以下の濃度である5μg/LのSIMクロマトグラムをFigure 5に示した。

Figure 5. chromatograms of each formaldehyde at 5μg/L
ホルムアルデヒドの検量線と5μg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、Figure 6とTable 4にそれぞれ示した。検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であり、定量下限以下の5μg/Lにおける定量値の変動係数も5%以下と良好な結果が得られた。

Figure 6. Calibration curve of formaldehyde
Table 4. Coefficient variation (C.V.) of formaldehyde at 5μg/L
Quantitation value (μg/L) | #1 | 5.156 | |
---|---|---|---|
#2 | 5.188 | ||
#3 | 5.166 | ||
#4 | 5.148 | ||
#5 | 5.151 | ||
C. V. | 0.31 % |
5. フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
5. 1. 測定方法
通知法、目標9に従い、精製水20ml に濃度が5,10,20,50μg/Lとなるように標準品を添加し、溶媒抽出により10 倍に濃縮後、GC/MSで測定した。
5. 2. 測定結果
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは、50μg/Lが目標値である。目標値の1/10以下の濃度である5μg/LのSIMクロマトグラムをFigure 7に示した。

Figure 7. SIM chromatograms of Di(2-ethylhexyl)phthalate at 2μg/L
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの検量線と5μg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 8とTable 5にそれぞれ示した。検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であり、定量下限以下の5μg/Lにおける定量値の変動係数も5%以下と良好な結果が得られた。

Figure 8. Calibration curve of Di(2-ethylhexyl)phthalate
Table 5. Coefficient variation (C.V.) of Di(2–ethylhexyl) phthalate at 5μg/L
Quantitation value (μg/L) | #1 | 5.211 | |
---|---|---|---|
#2 | 5.036 | ||
#3 | 5.107 | ||
#4 | 5.122 | ||
#5 | 5.151 | ||
C. V. | 1.25 % |
6. ジクロロアセトニトリル及び抱水クロラール
6. 1. 測定方法
通知法、別添方法3に従い、精製水20ml に濃度が1,2,5,10μg/Lとなるように標準品を添加し、溶媒抽出により10倍に濃縮後、GC/MSで測定した。
6. 2. 測定結果
ジクロロアセトニトリルの目標値は10μg/L、抱水クロラールの目標値は20μg/Lである。目標値の1/10以下の濃度である1μg/LのSIMクロマトグラムをFigure 9に示した。

Figure 9. SIM chromatograms of dichloroacetonitrile & chloralhydrate at 1μg/L
ジクロロアセトニトリル及び抱水クロラールの検量線と1μg/Lの試料をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数の値を、 Figure 10とTable 6にそれぞれ示した。検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であり、定量下限以下の1μg/Lにおける定量値の変動係数も5%以下と良好な結果が得られた。

Figure 10. Calibration curve of dichloroacetonitrile & chloralhydrate
Table 6. Coefficient variation of dichloroacetonitrile & chloralhydrate at 1μg/L
Compound name | Quantitation value (μg/L) | C.V. | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | ||
Dichloroacetonitrile | 1.003 | 1.027 | 1.031 | 1.013 | 1.000 | 1.4 % |
Chloralhydrate | 1.046 | 1.077 | 1.045 | 1.054 | 1.033 | 1.6 % |
7. まとめ
フェノール類、ハロ酢酸、ホルムアルデヒド、フタル酸ジ(2-エチルへキシル)、ジクロロアセトニトリル及び抱水クロラールについて、同一カラムによる測定を行うことによる分析の効率化を検討した。検量線の直線性と基準値あるいは目標値の1/10以下の濃度における再現性について検証した結果は良好であり、同一カラムによる測定は十分に可能であることが示唆された。
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