P&T-GC/MS法によるダゾメット、メタム及びメチルイソチオシアネートの分析
MSTips No.337
はじめに
ダゾメット、メタム及びメチルイソチオシアネートはジチオカルバメート系化合物に属する土壌くん蒸剤で、野菜,果樹用の殺線虫・殺菌・除草剤として広く利用されており、水道水質基準を補完している水質管理目標設定項目の対象成分となっている。目標値は、メチルイソチオシアネートとして0.01mg/Lの値となっており、これは水の存在下で容易にメチルイソチオシアネートに分解されるダゾメットとメタムの性状に依るものである。分析方法は、「水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について、別添4、別添方法23」において、パージ・トラップ(P&T)-GC/MS法が採用されている。
P&T-GC/MS法は、水質基準項目の揮発性有機化合物 (→以後、VOCと省略) あるいはカビ臭気原因物質である2-メチルイソボルネオール (2-MIB)・ジェオスミンの検査方法としても利用されており、機器を運用する上でカラム等の構成はそれらの検査方法と同一であることが望ましいと考えられる。本報では、VOCと2-MIB・ジェオスミンのそれぞれの検査と同一の機器条件で測定し、各条件における検量線を作成し、「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン (→以後、ガイドラインと省略)」に基づき真度と精度について評価したので結果を報告する。

JMS-Q1500GC with Lumin P&TC / AQUATek LVA
測定方法
サンプルは、濃度が0.02, 0.05, 0.2, 0.5, 1ppbとなるよう調整した。内部標準物質は、フルオロベンゼンを使用し、P&T装置の自動添加機能により、自動添加した。サンプルの測定条件をTable 1に示した。測定条件は、 VOCの測定と同一の機器条件 (→以後、条件Aと記述) と2-MIB・ジェオスミンの測定と同一の機器条件 (→以後、条件B) の2通りあり、それぞれにおいて同一のサンプルを測定した。調整したサンプルは、低濃度から高濃度の順に測定を行い、各濃度につき3回分の測定データを取得した。
Table 1. Measurement condition
Parameter | Value | ||
---|---|---|---|
Method A (Configuration for VOCs) | Method B(Configuration for 2-MIB・Geosmin) | ||
P&T | Purge time | 4 min | 10 min |
Purge temp. | 40°C | 40°C | |
Sample volume | 25 mL | 25 mL | |
GC | Column | Rtx-VMS (Restek Corporation), 30m×0.25mm id, 1.4μm film thickness |
ZB-(Phenomenex Inc.), 20m×0.18mm id, 0.18μm film thickness |
Oven temp. | 40°C for 2min, to 70°C at 7°C/min, to 240°C at 20°C/min, and hold for 1min |
40°C for 2min, to 160°C at 10°C/min, to 220°C at 25°C/min, and hold for 1.6min |
|
Injector temp. | 230°C | 230°C | |
Injection mode | Split (1:40) | Split (1:10) | |
Column flow | 1.5 mL/min | 1 mL/min | |
MS | Interface temp. | 250°C | 230°C |
Ion source temp. | 250°C | 230°C | |
Acquisition mode | SIM | ||
Monitor ion | Fluorobenzene (m/z 96, 70), Methyl isothiocyanate (m/z 73, 72) |
測定結果
サンプルの測定結果より、n=1における各濃度点の測定データを使用して作成した検量線をFigure 1に示した。また、検量線の下限濃度におけるメチルイソチオシアネートの定量イオンのEICをFigure 3に示した。

Figure 1. Calibration curve of Methyl isothiocyanate with Method A and B

Figure 2. EIC of Methyl isothiocyanate (0.02ppb) with Method A and B
検量線を使用して全ての測定データについて、調整濃度に対する定量値の比率から真度を、各濃度における相対標準偏差 (RSD) から精度をそれぞれ算出した。算出した値をTable 2にそれぞれ示した。ガイドラインにおいては、真度は調整濃度に対して80~120%の範囲、精度は20%以下であることが要求されている。今回、算出された真度と精度は、各メソッドで測定したいずれの濃度点においてもガイドラインの基準を満たす良好な結果が得られている。
Table 2. Accuracy & reproducibility of calibration curve with Method A and B
Sample Conc. (ppb) | Injection | Method A | Method B | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Value (ppb) | Recovery rate | C.V. | Value (ppb) | Recovery rate | C.V. | ||
0.02 | #1 | 0.020 | 100% | 2.9% | 0.020 | 100% | 2.8% |
#2 | 0.019 | 115% | 0.021 | 105% | |||
#3 | 0.020 | 105% | 0.020 | 100% | |||
0.05 | #1 | 0.047 | 94% | 2.4% | 0.047 | 94% | 1.2% |
#2 | 0.049 | 98% | 0.047 | 94% | |||
#3 | 0.049 | 98% | 0.048 | 96% | |||
0.2 | #1 | 0.215 | 108% | 2.5% | 0.199 | 100% | 3.4% |
#2 | 0.226 | 113% | 0.187 | 94% | |||
#3 | 0.221 | 111% | 0.189 | 95% | |||
0.5 | #1 | 0.479 | 96% | 3.5% | 0.495 | 99% | 2.3% |
#2 | 0.508 | 102% | 0.481 | 96% | |||
#3 | 0.510 | 102% | 0.504 | 101% | |||
1 | #1 | 1.015 | 102% | 0.3% | 1.055 | 106% | 2.3% |
#2 | 1.010 | 101% | 1.014 | 101% | |||
#3 | 1.015 | 102% | 1.015 | 102% |
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