ハイエンドGC-QMSを利用した水質分析における業務効率化 ~ ダブルカラム接続によるVOC、カビ臭、ハロ酢酸類、ホルムアルデヒド、フェノール類のScan定量 ~
MSTips No.346
はじめに
水道法第4条に基づく「水質基準に関する省令」で規定される水質基準のうち、19項目がGC-MS法を検査方法として採用している。さらにGC-MS法が対象の19項目は、Figure 1に示すように揮発性有機化合物 (以後、VOCと省略)、カビ臭気原因物質 (以後、カビ臭と省略)、ハロ酢酸類、ホルムアルデヒド、フェノール類といった5種類の化合物群に大別され、それぞれに検査方法として異なる告示法が設定されている。弊社では水質分析における業務効率化を目的として、中極性カラムによるVOCとカビ臭の同一カラム分析を MSTips No.334 、そして無極性カラムによるハロ酢酸類、ホルムアルデヒド、フェノール類の同一カラム分析を MSTips No.325 としてそれぞれ報告してきた。
今回、弊社が2021年度に上市した第6世代のハイエンドGC-QMSである「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」を用いて、中極性カラムと無極性カラムの同時接続により1台の装置で水質基準のGC-MS対象項目全てを測定可能とするシステムを構築したので報告する。また、新たにアタッチメントとして用意される「高性能EIイオン源:EPIS」を使用することで、従来のSIM定量における煩雑な条件設定が不要となるScan定量が可能となったので併せて報告する。

Figure 1. Measurement items by GC-MS method in Japanese drinking water regulation
測定
1. サンプル調整
VOC: 3 gの塩化ナトリウムと精製水10 mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、1,4-ジオキサンを除くVOCを0.1, 0.2, 0.5, 1, 2, 5, 10 μg / L、1,4-ジオキサンを1, 2, 5, 10, 20, 50, 100 μg / Lとなるよう添加し、調整した。内部標準物質は、各測定試料にフルオロベンゼンとp-ブロモフルオロベンゼンを2.5 ppb、1,4-ジオキサン-d8を200 μg / Lの濃度になるよう添加した。
カビ臭: 4.5 gの塩化ナトリウムと精製水10 mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-メチルイソボルネオール (以後、2-MIBと省略) とジェオスミンを1, 2, 5, 10 ng / Lとなるよう添加し、調整した。内部標準物質は、2,4,6-トリクロロアニソール-d3を20 ng / Lの濃度になるよう添加した。
ハロ酢酸類: 誘導体化処理後の化合物であるクロロ酢酸メチル、ジクロロ酢酸メチル、トリクロロ酢酸メチルについて、処理前の検水中のハロ酢酸の濃度として0.002, 0.004, 0.008, 0.02, 0.04 mg / Lとなるよう、MTBEで段階的に希釈して調整した。内部標準物質は、各測定試料に1,2,3-トリクロロプロパンを0.1 mg / Lの濃度となるように添加した。
ホルムアルデヒド: 誘導体化処理後の化合物であるPFBOA-ホルムアルデヒドについて、処理前の検水中のホルムアルデヒドの濃度として0.002, 0.001, 0.005, 0.01, 0.05, 0.1 mg / Lとなるよう、n-ヘキサンで段階的に希釈して調整した。内部標準物質は、各測定試料に1-クロロデカンを0.1 mg / Lの濃度となるように添加した。
フェノール類: フェノール、2-クロロフェノール、4-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノールを、処理前の検水中の濃度として0.0005, 0.001, 0.005, 0.01 mg / Lとなるよう、酢酸エチルで段階的に希釈した後、分取した溶液1 mLにN,O-ビス (トリメチルシリル) トリフルオロアセトアミドを50 μL添加し、1時間静置したものを検液とした。内部標準物質は、アセナフテン-d10を0.2 mg / Lの濃度となるように添加した。
2. 測定条件
サンプルの測定条件をTable 1に示した。測定条件のうち、MS側のデータ取得は、Scanモードを使用した。Scanモードは、SIMに比べて感度面では不利なものの、SIMに必要な測定条件作成が不要なため、分析業務におけるワークフローは単純化される。今回、高性能EIイオン源: EPISを使用することで、高感度測定とオペレーションコスト削減の両方を可能とする測定条件を採用した。
Table 1. Measurement condition
VOC | Geosmin, 2-MIB | Haloacetic acids | Formaldehyde | Phenols | ||
---|---|---|---|---|---|---|
HS | Sample temp. | 70°C | 80°C | |||
Heating time | 30min | |||||
Sampling mode | Trap (3 times) | |||||
GC | Column | DB-1301 (Agilent Technologies, Inc.), 60 m × 0.32 mm id, 1 μm film thickness |
InertCap 1MS (GL Sciences Inc. ), 30 m × 0.25 mm id, 1 μm film thickness |
|||
Oven | 40°C for 3 min, to 100°C at 5°C / min, to 250°C at 10°C / min, and hold for 5 min |
40°C for 8 min, to 250°C at 15°C / min, and hold for 3 min |
50°C for 1 min, to 250°C at 15°C / min, and hold for 5 min |
70°C for 1 min, to 250°C at 15°C / min, and hold for 5 min |
||
Carrier gas | 83.44 kPa (Constant Pressure) | 1 mL / min (Constant Flow) | ||||
Inlet temp. | 250°C | |||||
Injection mode | Splitless | |||||
Injection volume | 2 μL | |||||
MS | Interface temp. | 250 °C | ||||
Ion source temp. | 250 °C | |||||
Ionization current | 50 μA | 100 μA | 100 μA | 50 μA | 100 μA | |
Ionization energy | 70 eV | |||||
Acquisition mode | Scan | |||||
Scan range | m/z 45 ~ 200 | m/z 80 ~ 230 | m/z 40 ~ 160 | m/z 33 ~ 230 | m/z 33 ~ 300 |
測定結果
測定対象成分について、検量線の相関係数と検量線の下限濃度をn=5で連続測定した際の定量値の変動係数 (以後、C.V.と省略) をTable 2に示した。また、VOCの1,4-ジオキサン、カビ臭気原因物質の2-メチルイソボルネオール、ハロ酢酸類のクロロ酢酸、フェノール類の2,4,6-トリクロロフェノールについては検量線をFigure 2、検量線の下限濃度のクロマトグラムをFigure 3に示した。Table 2に示した相関係数及は全ての成分で0.999以上であり、今回調整した濃度範囲において良好な直線性が得られている。
また、下限濃度における変動係数についても全ての成分で5%以下であり、水質検査において必要とされる感度指標となる基準値の1/10の濃度を十分に測定可能であることが示された。
Table 2. Correlation Coefficient and Coefficient of Variation (C.V.) of each compound.
Compound Name | Correlation Coefficient |
C.V. (%) |
Sample Conc. (μg/L) |
Standard Value (μg/L) |
---|---|---|---|---|
Carbon tetrachloride | 0.9998 | 2.0 | 0.1 | 2 |
1,4-dioxane | 0.9999 | 3.4 | 1 | 50 |
trans-1,2-dichloroethylene | 0.9999 | |||
cis-1,2-dichloroethylene | 0.9999 | |||
1,2-dichloroethylene | 0.8 | 0.2 | 40 | |
Dichloromethane | 0.9997 | 3.4 | 0.1 | 20 |
Tetrachlorethylene | 0.9998 | 0.9 | 0.1 | 10 |
Trichlorethylene | 0.9999 | 1.4 | 0.1 | 10 |
benzene | 0.9999 | 1.0 | 0.1 | 10 |
Chloroacetic acid | 0.9998 | 2.6 | 2 | 20 |
Chloroform | 0.9999 | 1.0 | 0.1 | 60 |
Dichloroacetic acid | 0.9999 | 1.9 | 2 | 30 |
Dibromochloromethane | 0.9997 | 2.6 | 0.1 | 100 |
Compound Name | Correlation Coefficient |
C.V. (%) |
Sample Conc. (μg/L) |
Standard Value (μg/L) |
---|---|---|---|---|
Total trihalomethane | 1.6 | 0.4 | 100 | |
Trichloroacetic acid | 0.9997 | 0.8 | 2 | 30 |
Bromodichloromethane | 0.9999 | 1.8 | 0.1 | 30 |
Bromoform | 0.9990 | 2.5 | 0.1 | 90 |
Formaldehyde | 0.9999 | 0.7 | 1 | 80 |
2-Methylisoborneol | 0.9992 | 4.3 | 0.001 | 0.01 |
Geosmin | 0.9995 | 1.6 | 0.001 | 0.01 |
Phenol | 0.9988 | 0.9 | 0.5 | 5 |
2-Chlorophenol | 0.9998 | 0.5 | 0.5 | |
4-Chlorophenol | 0.9998 | 0.6 | 0.5 | |
2,6-dichlorophenol | 0.9999 | 0.9 | 0.5 | |
2,4-dichlorophenol | 0.9999 | 0.2 | 0.5 | |
2,4,6-Trichlorophenol | 0.9999 | 3.7 | 0.5 |

Figure 2. Calibration curve of 1,4-Dioxane, 2-MIB, Chloroacetic acid, 2,4,6-Trichlorophenol.

Figure 3. SIM chromatogram of 1,4-Dioxane, 2-Methylisoborneol, Chloroacetic acid, 2,4,6-Trichlorophenol at minimum plot of each calibration curve.
まとめ
高性能EIイオン源:EPIS を搭載した「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」にVOC、カビ臭測定用の中極性カラムとハロ酢酸、ホルムアルデヒド、フェノール類測定用の無極性カラムを同時接続することで、水質基準のGC-MS対象項目全てを測定可能なGC-MSシステムを構築することができた。本システムを利用することで、真空停止を伴うカラム交換をする事無く、GC-MS対象項目全てを測定可能であり、加えて煩雑な測定条件設定が不要なScan定量を採用することで、従来のSIM定量に比べて大幅なオペレーションコストの削減が可能である。
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