硫化物系固体電解質を使用した全固体Liイオン電池からの発生ガス分析
MSTips No. 351
はじめに
二次電池を使用した際に内部で発生するガスの把握は、性能維持・品質管理の面で検討が進んでいます。内部で発生したガスを取り出せる実験用電池を用いると電池の実作動環境である閉鎖空間とは異なりますが、発生するガス種の同定や発生量の変化を見積もることができます。本内容は全固体電池の充放電中に発生するガスに注目して質量分析計を用いた分析事例を紹介します。
今回、セルからの発生ガスについて、ガス種の同定を高性能ガスクロマトグラフ飛行時間質量分析計 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを用いて行い、ガス量の変化をガスクロマトグラフ質量分析計 JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを用いて測定したので結果を紹介します。
分析手法
ガス供給と発生ガスの取出しが可能な実験用セルを質量分析計を接続し、充放電後及び充放電中の発生ガスについて測定しました。実験用セルと質量分析計の接続イメージを下記に示します。

JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaを利用した充放電後にセル内部で発生したガス種の同定
セルで発生したガスを高質量分解能で測定し、抽出したマススペクトルと主要なピークについて、精密質量による組成演算を行った結果を下記に示します。充放電後のガスからは固体電解質由来と思われる各種硫化物 (H2S,CH4S,C2H6S) の他、ヨードメタン (CH3I) 等が検出されました。更に、検出成分のうち硫化水素 (H2S) については、放電後の発生量の増加が確認出来ました。
充電後

放電後

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを利用した充放電中のセル内部で発生したガスの変化
セルを充放電しながら内部で発生したガスをリアルタイムに測定した結果を下記に示します。グラフでは、セル内部で発生した硫化水素とヨードメタンの発生量の変化を示します。硫化水素については、充電開始直後に大きく減少し、その後は緩やかに減少しつつ、放電に切り替わったタイミングで上昇に転じています。ヨードメタンについては、充電開始直後に大きく上昇し、その後は緩やかに上昇しつつ、放電に切り替わったタイミングで減少に転じており、硫化水素とは逆の挙動になっていることがわかります。

謝辞
アプリケーションの作成にあたって、実験用セルをご準備頂いた豊橋技術科学大学 (電気・電子情報工学系) 松田厚範先生と松田麗子先生に感謝致します。
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