高性能イオン源:EPISを利用したカビ臭気原因物質の高感度分析
MSTips No. 354
1. はじめに
水道法第4条に基づく「水質基準に関する省令」で規定される水質基準のうち、カビ臭気原因物質 (以後、カビ臭と省略) である2-メチルイソボルネオール (2-MIB) とジェオスミンは、0.00001 mg/L (=10 ppt) の基準値が設定されており、実際には基準値の1/10である1 pptまでの検出が分析装置に求められている。この値は、GC-MS法を検査方法として採用している19項目の中で最も低い値であり、分析装置に高い検出能力が求められる。
今回、弊社が2021年度に上市した第6世代のハイエンドGC-QMSである「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」は、アタッチメントとして「高性能イオン源:EPIS」を有しており、従来の装置と比べて高感度が測定が可能となっている。本報では、EPISを搭載したJMS-Q1600GCとヘッドスペースオートサンプラーMS-62071STRAPを使用して、2-MIBとジェオスミンの高感度に測定した事例を紹介する。
2. 実験
サンプルは、4.5 gの塩化ナトリウムと精製水10 mLを量り入れたヘッドスペース用バイアルに、2-メチルイソボルネオール (以後、2-MIBと省略) とジェオスミンを1, 2, 5, 10 ng/Lとなるよう添加し、調整した。内部標準物質は、2, 4, 6-トリクロロアニソール-d3を20 ng/Lの濃度になるよう添加した。サンプルの測定条件をTable 1に示した。

JMS-Q1600GC UltraQua™ SQ-Zeta
w/ MS-62071STRAP

Enhanced Performance Ion Source
Table 1. Measurement condition
Parameter | Value | |
---|---|---|
HS | Sample temp. | 80°C |
Heating time | 30 min | |
Sampling mode | Trap | |
Number of sampling | 3 | |
Trap tube | AQUATRAP1 (GL Sciences Inc.) | |
GC | Column | InertCap 1MS (GL Sciences Inc.), 30 m × 0.25 mm id, 0.4 μm film thickness |
Oven temp. | 40°C (3 min) → 5°C/min → 150°C (0 min) → 20°C/min → 250°C (5 min) | |
Carrier gas | 1.5 mL/min (Constant Flow) | |
MS | Interface temp. | 250°C |
Ion source temp. | 250°C | |
Acquisition mode | SIM | |
Monitor ion | 2-MIB (m/z 95, 107, 108), Geosmin (m/z 112, 111, 125), 2, 4, 6-Trichloroanisole (m/z 213, 215) |

Figure 1. SIM chromatograms of 2-MIB & Geosmin in JMS-Q1600GC w/ EPIS

Figure 2. SIM chromatograms of 2-MIB & Geosmin in JMS-Q1600GC

Figure 3. Calibration curve of 2-MIB & Geosmin
Table 2. Quantitative value & Error rate, Correlation coefficient of Calibration curve
2-MIB | Geosmin | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 ng/L | 2 ng/L | 5 ng/L | 10 ng/L | 1 ng/L | 2 ng/L | 5 ng/L | 10 ng/L | |
Quantitative value (ng/L) | 1.02 | 1.90 | 5.11 | 10.08 | 1.01 | 1.98 | 4.89 | 10.24 |
Error rate (%) | 2.0 | -5.0 | 2.2 | 0.8 | 0.6 | -0.9 | -2.2 | 2.4 |
Correlation coefficient | 0.9998 | 0.9997 |
Table 3. Quantitative value & Error rate, Coefficient of variation in 1 ng/L(n=5)
2-MIB | Geosmin | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | |
Quantitative value (ng/L) | 1.10 | 1.13 | 1.13 | 1.07 | 1.12 | 0.96 | 1.00 | 1.03 | 0.98 | 1.03 |
Error rate (%) | 9.5 | 13.1 | 12.8 | 7.0 | 12.2 | -4.2 | -0.1 | 3.2 | -2.2 | 2.9 |
Coefficient of variation (%) | 2.4% | 3.2% |
3. 測定結果
濃度1 ng/LのサンプルをEPISを搭載したJMS-Q1600GCで測定した2-MIBとジェオスミンのSIMクロマトグラムをFigure 1に示した。また、比較のためにEPIS非搭載のJMS-Q1600GCで測定した2-MIBとジェオスミンのSIMクロマトグラムをFigure 2に示した。Figure 1, 2の縦軸幅はピーク強度の比較のために同一に設定した。両者を比較した結果、EPISを搭載した測定結果における2-MIBとジェオスミンのピーク強度が、非搭載の結果に比べて大きく上昇しており、併せてS/Nの値も向上していることが分かる。
各濃度のサンプルをEPISを搭載したJMS-Q1600GCで測定し、2-MIBとジェオスミンの検量線を作成した(Figure 3)。検量線の各濃度点の定量値、誤差率と検量線の相関係数をTable 2に示した。相関係数については、2-MIB及びジェオスミンともに0.999以上で良好な直線性が得られており、各濃度点の誤差率は何れのプロットにおいても±20%の範囲内であった。次に、濃度1 ng/Lのサンプルをn=5で連続測定し、各繰り返しの定量値、誤差率、変動係数をTable 3に示した。変動係数については、2-MIB及びジェオスミンともに5%以下で良好な再現性が得られており、各繰り返しの誤差率は何れも±20%の範囲内であった。
以上の結果より、MS-62071STRAPを用いたカビ臭の測定において、JMS-Q1600GCは高性能イオン源:EPISを使用することで、より高感度な測定が可能となる。EPISによる高感度測定は、本報で示した水質基準におけるカビ臭分析のような感度を必要とする定量分析においては極めて有効なアタッチメントである。
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