MultiAnalyzerを用いたFD法によるポリプロピレン製品中の臭素系難燃剤分析
MSTips No. 355
はじめに
マルチイオン化-未知物質解析システムJMS-T2000GC MultiAnalyzerは高分解能TOFMS、マルチイオン化、自動解析ソフトmsFineAnalysisにより高度な分析結果をハイスループットに提供する。GC-MSを用いた材料分析では熱分解-GC-MS法 (以下熱分解法) が広く活用されており、MSTips No.330ではPP/PE共重合ポリマー製品における良品と不良品の差異分析例を示した。一方で材料中の添加剤分析においては、熱分解しきらずにカラムを通り抜けられない成分や、熱分解により元の構造を推定しづらくなるような成分で取りこぼしが発生する。これらの成分に対してはFD法が有効である。今回は熱分解法で差異が見られなかったポリプロピレン (以下PP) 製品2種に対し、FD法で差異として臭素系難燃剤を観測することができたので報告する。
FD法の概要
Figure1にFD法の模式図を示す。FD法ではサンプルを溶媒で希釈した後、エミッタープローブに滴下してイオン源に導入する。この際サンプルは溶媒に溶かし切る必要はなく、それを積極的に利用すれば添加剤のみを溶媒抽出して測定することも可能である。カラムを介さない直接導入法であるため高沸点 (高質量) 成分を測定可能であり、かつソフトイオン化であることから分子イオンを観測可能である。またMultiAnalyzerは共用イオン源によるマルチイオン化を実現しており、真空解除・イオン源交換不要で熱分解法 (EI法/FI法) とFD法を連続して測定可能である。

Figure 1. Schematic diagram of the FD method
実験
Table1に本実験の測定条件の詳細を示す。サンプルには市販のPP製品2種 (性難燃性と非難燃性) を用いた。このサンプルは熱分解法における差異分析では難燃剤由来の差異を抽出することができなかったものである。FD法の測定は1検体1分程度と短時間である。エミッターには-10 kVの高電圧がかかっており、サンプル分子から電子を引き抜きソフトイオン化する。測定開始後徐々にエミッター電流を上げてイオン化をアシストしつつ、最終的には残留物を高温で焼き出す。このため測定終了後のコンディショニング操作等は不要で、すぐに次のサンプルの測定が可能となる。
Table 1. Measurement conditions
Sample | 2 types polypropylene products (Flame-retardant, non-flame-retardant) |
---|---|
Preprocessing | Dilute 1mg sample with acetone after freezing and grinding |
MS | JMS-T2000GC MultiAnalyzer (JEOL) |
Ion source | EI/FI/FD combination ion source |
Ionization | FD method, Cathode voltage -10 kV, Emitter current 0 → 51.2 mA/min → 40 mA, |
Mass range | m/z 50~1,600 |
結果
Figure2にFD測定結果のマススペクトルを示す。難燃性PPからm/z 943.4797に明確な差異ピークを観測、同位体パターン解析および組成推定により臭素系難燃剤と推定された。さらに各マススペクトルに対して解析ソフトウェアMass Mountaineer (RBC Software社製) による解析を行った。本ソフトウェアはマススペクトルに対し自動でピーク抽出と組成推定を行い、あらかじめ用意しておいた組成式リストとの照合を行う機能を有する。組成式のみ分かれば照合が可能となるため、多種多様な成分に対するスクリーニング分析が可能となる。今回は500成分程度の添加剤を登録したリストを用いた結果、複数の酸化防止剤がヒットした。

Figure 2. Mass spectra by FD method
まとめ
JMS-T2000GC MultiAnalyzerのFD法では熱分解法が取りこぼす可能性のある添加剤をカバーする事が可能である。両者は測定法としての親和性も高いことから、材料分析における新しい分析フローとして活躍が期待できる。
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