JMS-S3000 "SpiralTOF™" を用いたボロキシンケージの測定
MSTips No. 369
ボロキシンケージは、ボロキシン形成反応を利用したナノメートルサイズの共有結合性かご状分子である[1]。このような分子サイズの中空構造体は他の分子を内包することができる。内包された分子は時としてその性質を大きく変えることがあり、それを利用した様々な応用が検討されている。ボロキシンケージの合成を確認する手法の1つは質量分析法であり、MALDI-TOFMSは広範な化合物を主に1価イオンでイオン化可能である点で適している。JMS-S3000 SpiralTOF™は独自のらせん軌道により17 mという長い飛行距離を実現し、MALDI法でイオン化した低分子から高分子領域の化合物を高質量分解能と高質量精度で測定可能である。本報告では、ボロキシンケージ12量体の精密質量測定を行ったので報告する。
測定条件
サンプルはボロキシンケージ12量体である (Figure 1)。Table 1に組成および質量情報を示す。マトリックスにはDCTB (trans-2- [3- (4-tert-Butylphenyl) -2-methyl-2-propenylidene] malononitrile)、カチオン化剤にAgTFA (トリフルオロ酢酸銀) を用いた。マススペクトルは、SpiralTOFモード (正イオンモード) で取得した。また精密質量測定にはポリスチレンを内部標準物質として質量校正を行った。
Table1 Elemental composition and m/z of boroxine cage 12-mer.
Elemental composition | Lowest m/z of [M+Ag]+ | Most abundant m/z of [M+Ag]+ |
---|---|---|
C600H912B24O48 | 9246.07275 u | 9261.05893 u |

Figure 1 Structure of
boroxine cage 12-mer.
測定結果とまとめ
SpiralTOFモードによるマススペクトルをFigure 2に示す。マススペクトルには、ボロキシンケージの12量体の[M+Ag]+をベースピークに9量体の[M+Ag]+も観測された。12量体の同位体ピーク付近の拡大図を示した。これをみてわかるように、分子量が1万程度の12量体の同位体パターンの中ではモノアイソトピックピーク (m/z 9246) の相対強度は僅かに0.0017 %であり観測できない。同様に内部標準として使用したポリスチレンの[M+Ag]+イオンにおいてもモノアイソトピックピークの強度は低く、それを用いた精確度の高い質量校正は困難であった。
そこで、内部標準として使用したポリスチレンの各同位体クラスターに関して同位体ピークパターンのシミュレーションを行い、各同位体クラスターの中の最大強度のピークを用いて質量校正を確立した。それに基づいてボロキシンケージの12量体の最大強度のピークの質量誤差を調べたところ、計算質量と-0.7 mDaの誤差であった。また同位体パターンのシミュレーション結果と比較してもよい一致を示した。
このようにSpiralTOF™は、分子量1万程度の高分子量化合物であっても精密質量と同位体パターンから、その合成を確認ができる有効な手段といえる。

Figure 2 Observed and simulated mass spectrum of the boroxine cage 12-mer.
参考文献
1) Self-Assembly of Nanometer-Sized Boroxine Cages from Diboronic Acids, K. Ono et. al. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 7015−7018
謝辞
東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻 岩澤研究室より試料をご提供いただきました。
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