GC×GC-HRTOFMS を用いたアロマオイル分析 -AccuTOF™ GCv 4Gの性能の確認-
MSTips No.194
はじめに
AccuTOF™ GCv 4Gは、種々の改良を施した第3世代高分解能GC-TOFMSであり、いくつかの仕様性能が向上している。
代表的な新仕様性能は、①スペクトル記録速度:最高50スペクトル/秒、②質量分解能:8,000以上(m/z 614, FWHM)、③質量精度:1.5x10-3u もしくは4ppm、④質量範囲:m/z 4~5,000である。
一方、包括的二次元GC(GC×GC)システムは、極性の異なる2種類のカラムを直列に接続した連続的なハートカットシステムである。従来のキャピラリGC分析より高い分離能を有するため、多成分の測定において強力なツールとなる。しかし、2ndカラムの前段にてクライオトラップを行うため、得られるクロマトグラムのピークは、非常に狭くなることから、接続する検出器には、高速での記録が可能な装置が必要となる。よって、質量分析計を検出器として使用する場合は、TOFMSが最も適している。
そこで今回AccuTOF™ GCv 4GとGC×GC法を組み合わせたGC×GC-HRTOFMS システムを用いてアロマオイルの分析を行い、スペクトル記録速度と質量精度の性能を確認したので報告する。
試料及び条件
試料は、アロマオイルの一種であるTea Tree Oilの市販品をそのまま用いた。測定条件をTable1に示す。なお、GCxGCデータの処理にはGC Image(Zoex)を用いた。
Table 1 GCxGC-HRTOFMS measurement conditions
Instrument | AccuTOF™ GCv 4G (JEOL Ltd.) |
KT2004 (Zoex Cormpration) |
Injection mode | Split 200:1 |
Injection temp. | 270°C |
Oven temp. program | 50°C(3min) → 5°C/min → 270°C(8min hold) |
Injection volume | 0.2μL |
Column set | 1st: BPX-5(Trajan SGE社製)、30m×0.25mm, 0.25μm |
2nd: BPX-50(Trajan SGE社製)、2m×0.1mm, 0.1μm | |
Modulation period | 6sec |
Ionization mode | EI+ (70eV, 300μA) |
Ion source temp. | 270°C |
m/z range | m/z 35 - 500 |
Data acquisition speed | 0.02 sec (50Hz) |
結果及び考察
Fig.1に、得られたTICクロマトグラムから作成した2D Mapを示す。また、2D Map上には、マススペクトルから定性した化合物名と構造を示した。
今回のカラムセットでは、1stカラムに微極性、2ndカラムに極性カラムを使用していることから、横軸方向には沸点順、縦軸方向には極性順で、それぞれの検出成分が溶出する。

Fig. 1 GCxGC/EI TIC chromatogram
-スペクトル記録速度-
Fig. 1で約30分に溶出したp-Menthane-1,2,4-triolに関して、得られたクロマトピークのピーク幅から、必要なスペクトル記録速度の確認を行った。Fig. 2に、同一のカラムセットにてモジュレーションの有無によるp-Menthane-1,2,4-triol 溶出時間付近の一次元及び二次元クロマトグラムをそれぞれ示した。また、二次元クロマトグラムに関しては、p-Menthane-1,2,4-triolピークの拡大クロマトグラムを示した。
Fig.2に示すように、モジュレーションを行わない一次元クロマトグラムでは、p-Menthane-1,2,4-triolを主成分とするピークは約5秒のピーク幅であった。一方の二次元クロマトグラムでは、p-Menthane-1,2,4–triolは、約0.18秒と非常に狭いピーク幅となった。よって、スペクトル測定で一般的に用いられる2.5~10Hzのスペクトル記録速度では、十分なクロマトグラム上のデータポイントが得られないのに対し、本装置の50Hzでのスペクトル記録速度では、Fig.2の右拡大図に示したように9ポイントと、十分なクロマトグラム上のデータポイントが確保できることが確認された。

Fig.2 The enlargement of a chromatogram peak of p-Menthane-1,2,4-triol
-精密質量精度-
次にFig.1において33分付近に溶出した環式セスキテルペンアルコール類の一種であるSpathulenol(C15H24O:Exact mass;220.18271)のマススぺクトルを用いて、精密質量精度を確認した。Fig.3にSpathulenolのマススペクトル、そしてTable 2には、同一試料を5回連続測定した際に観測された分子イオンの精密質量(Accurate mass)と計算質量(Exact mass)との誤差(Error:mDa)を示した。
その結果、精密質量と計算質量の誤差が0.46~0.78mDaと、非常に高精度、且つ安定した結果が得られた。このことから、高速データ取得条件下においても、信頼性の高い組成推定が可能であることが確認された。

Fig.3 Mass spectrum of Spathulenol
Table 2 Error of the exact mss and accurate mass of Spathulenol
No. | Accurate mass (Da) | Error (mDa) |
1 | 220.18348 | 0.77 |
2 | 220.18337 | 0.65 |
3 | 220.18326 | 0.55 |
4 | 220.18349 | 0.78 |
5 | 220.18318 | 0.46 |
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