ESR年代測定-その1-
ER080001
はじめに
ESR年代測定法は、放射性炭素年代測定法の適用が困難な約6万年前から200万年前にいたる時代範囲の新しい年代測定法として注目されている。
自然界に存在する放射性同位元素は、それぞれ一定の半減期で崩壊し、α、β、γ線を放出する。大地に含まれる放射性元素からの放射線は、年間約3~6mGy(グレイ)あり、その他に宇宙線(年間約0.2mGy)が上空から降り注いでいる。この様な微弱な自然放射線により、物質はそれを構成する原子レベルにおいて放射線損傷を受け、不対電子が生成される。この損傷は、人為的に放射線を照射したときにも生じ、蓄積される。自然放射線が一定の強度で照射され続け、線量に比例して不対電子が生成・蓄積するならば、物質中の不対電子量は経過時間と比例して増加することになり、この原理を利用した年代測定が可能となる。その他に損傷を利用した年代測定法として、熱ルミネッセンス(TL)、光刺激ルミネッセンス(OSL)法がある。これらはESR法と同一原理に基づいているが、検出方法が異なる。
ESR年代測定
ESR年代測定法では、自然放射線によるESR信号の生成効率を求めるために人為的にγ線照射を試料に行う。何段階かの照射後にESR信号強度の増大を調べ、それを信号強度0の点まで外挿して、自然状態の総被曝線量を推定する(図1:付加線量法)。または、加熱等により信号を消失させ、照射によって元の信号強度が生成する線量を求める(信号再生法)。年代は、試料が現在までに受けた自然放射における総被曝線量に対して一年間に受ける自然放射線量(年間線量率)が一定と仮定すると、
年代 = 総被曝線量/年間線量率
により求められる。
図1. 付加線量法によるESR年代測定
Gyは放射線の吸収線量単位(1Gy=1J/kg=100rad)
ESR年代測定法の適用範囲
適用年代は、約数千年~200万年前(人類の進化と関係した年代)である。適用可能な地球科学事象は、断層運動の年代、また第四紀の火山の噴出年代といった地殻変動の大きいイベントを対象とする。ESR年代測定法を適用するためには、遷移金属などのESR測定の妨害になる元素を含まないこと、自然放射線f14によって生成するラジカルや格子欠陥が年代測定を適応させる時間スケールの間安定に存在できること、という条件が揃わなければならない。
測定可能な試料はサンゴ、貝、骨、石英などがESR年代測定可能な試料であることが多くの研究により示され、地球科学、人類学、考古学、地質学などの広い分野で用いられるようになっている(表1)。
ESR年代測定法により得られた年代の有意性は、他の年代測定法による知見や、地質学的な背景もあわせて総合的に判断されねばならない。
試料 | 年代を示す現象 | 測定対象 |
---|---|---|
鍾乳石 | 生成 | カルサイト |
貝化石 | 生育 | アラゴナイト、カルサイト |
サンゴ化石 | ||
歯 | 動物の育成 | ヒドロキシアパタイト |
化石骨 | ||
火山噴出物 | 火山の噴火 | 石英 |
花崗岩 | 岩体の冷却 | |
堆積物 | 堆積 |
参考文献
池谷元司(1987):ESR(電子スピン共鳴)年代測定,アイオニクス株式会社,p210.
Ikeya, M.(1993):“New Applications of Electron Spin Resonance, Dating, Dosimetry, and Microscopy”,World Scientific ,p.500.