ESRによる微量銅錯体の高感度測定
ER080004
銅は地球上に広く存在する元素で、多くの機能を持つことが知られています。安定なCu2+ を形成しますが、この電子配置は3d9であり、ESRの良い観測対象となります。充分な濃度があれば室温での測定も可能ですが、構造解析を行う場合はある程度低濃度に調整し低温測定を行うのが一般的です。
ここでは、天然海産物由来の銅タンパク質の測定例を紹介します。含有量が極めて少なく抽出単離が困難なため、挿入型デュワ(ES-UCD3X)を用いて77Kでの測定を行いましたが、図1に示した微弱なスペクトルしか得られませんでした。
そこで液体ヘリウム温度可変装置(ES-CT470)を用いて液体ヘリウムを冷媒とし、20Kでの測定を行ったところ図2に示したスペクトルが得られました。TypeⅡ銅錯体*に特徴的な分裂を示すg‖とg⊥が認められました。図2に表示したからスペクトルから求めたパラメーターを用いて、シミュレーションを行い結果を図3に示しました。実測スぺクトルとよい一致を示すパターンが得られました。
このように一般的に、ESRでは試料温度が低いほど高感度測定ができます。(弊社ESRアプリケーションノートER-080003をご参照ください)特に、ここでご紹介したように試料量の確保が困難な試料では、極低温測定が極めて有効な場合が少なくありません。
鉄など、ICP-MSよりも高感度測定が可能な元素もありますので、こうした金属化合物の高感度評価が必要な方は、ES-CT470での測定をご検討いただいてはいかがでしょうか。
(等方性、異方性シミュレーションプログラムは、FAシリーズに標準で搭載されています)



参考文献
*:ESRスペクトルの実際 桜井 弘 著 廣川書店廣川化学シリーズ51 1988年