耐熱性樹脂PAIの劣化挙動の評価 − 400℃熱負荷試験 ー
ER150004
近年、高機能樹脂として耐熱性樹脂の開発が進んでいます。樹脂の熱劣化メカニズムとして、ラジカル生成を伴う熱分解が知られています。多くの場合ラジカルは不安定なため、試料からの分離抽出といった操作を必要とする分析法では評価が困難です。電子スピン共鳴(ESR)装置は、ラジカルを選択的に検出するため、試料の前処理が不要という特長があります。今回、市販のポリアミドイミド樹脂(PAI)を試料として、空気を媒体とし400℃まで昇温可能な温度制御装置(400℃-VT)を併用し、試料に高温負荷するin-situ測定を行って生成するラジカルを測定した例をご紹介します。
試料:耐久温度 250℃のPAI樹脂を約 2×2×10mm に成型
測定:室温、100, 150~400℃間では25℃ごとに昇温し、各設定温度到達後5分で測定開始。
各温度1回目測定後に5分間のインターバルごとに2回測定した。
PAIに熱負荷しながらESR測定を行い、得られた一部のスペクトルを右図に示しました。ESRでは信号を微分波形で表 示するため、信号の中心は中央の基線とクロスする点(図中↓の位置)です。 いずれのスペクトルも設定温度到達後初回の測定結果です。スペクトル両端の逆位相の信号は、マーカーのMn2+由来のものです。
PAIからは複数のラジカル種が観測されました。室温ではっきりした信号が観測されましたが、昇温によりg=2.004が増加したことから、劣化に伴い-CO・が生成したと考えられました。図中に*印で示した窒素由来ラジカルと想定される信号も認められました。本樹脂にはヒンダードアミン系の抗酸化剤は添加されていないため、未重合のラジカル分子が残存している可能性が示唆され ました。
各温度でのスペクトルから総ラジカル量を求め、室温での量を100%として温度依存性をグラフに示しました。ラジカル量は100℃で一旦上昇したのち300℃までゆるやかに減少し、それ以上の温度で増加に転じました。また各温度での3回繰り返し測定の結果から、350℃以上で分解が盛んになることが示されました。これより、325℃付近まで熱分解反応が抑えられる処理がなされていることが推測されました。このように、低温から耐熱温度までのラジカルの変化は、耐熱性樹脂の熱劣化を考えるうえで重要な情報を与えるものと期待されます。

