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光と電子の強い相互作用(1) *** 過剰なスピンが及ぼす影響 ***

ER200006

一般的な電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance: ESR)スペクトルの測定装置は、測定感度を高める目的で、マイクロ波の共振器(キャビティ)を検出器として用いている。測定対象となる試料は、そのキャビティの中心にセットされ、試料がマイクロ波を吸収した時の共振回路のチューニングのズレをエネルギー吸収変化量として検出する。このとき、ESRや強磁性共鳴(Ferromagnetic Resonance: FMR)における吸収信号強度は、照射するマイクロ波パワーの平方根、そして測定対象となる物質に含まれる電子スピンの量に比例する。また、スペクトルの幅は、電子スピンの横緩和時間の逆数に比例する。キャビティとは、特定の周波数(𝜔𝑐=2𝜋𝑓𝑐)の光だけを限られた空間内に閉じ込める装置であり、ある磁場中に置かれた電子スピンは、ある特定のラーモア周波数(𝜔𝑟=2𝜋𝑓𝑟)で回転速度をロックされているコマのようなものである。そして、通常は𝜔𝑐=𝜔𝑟 の条件でスペクトルは測定される。近年、量子光学の発達によってこのキャビティ内の光(マイクロ波)とスピンの相互作用に注目が集まっている。

試料と方法

ESR用標準試料として用いられる2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl (DPPH)の粉末をφ3.0の石英試料管に11.4 mg充填したものを、図1(a)に示すように、キャビティ中心にセットした時 (Set_A) と、同じく図1(b)のように、キャビティ中心からずらしてセットした時 (Set_B) のESRスペクトルをそれぞれ測定した。

図1 非常に高濃度のスピンをもつサンプルとキャビティ内の配置

図1 非常に高濃度のスピンをもつサンプルとキャビティ内の配置

(a) 試料をキャビティ中心にセットした場合(Set_A)。(b) 試料をキャビティ中心から大きくずらして(+27mm)セットした場合(Set_B)。

スピン−キャビティ相互作用による線幅の増加現象

図2に示すスペクトルは、同じ試料のキャビティ内での位置を変えただけにもかかわらず、顕著な線幅の違いを示す。両者の違いは、キャビティ内のスピン量と、高周波磁束(magnetic flux)の密度の違いであるため、信号強度に違いが出ることは理解できても、スピン濃度に変化はないので、線幅の変化を説明することが出来ない。この現象は、溶液のESRなどで、スピン濃度を濃くしていった時の双極子-双極子相互作用による線幅の増加現象とは根本的に異なる現象である。実はこのとき、Set_Bのスペクトルが正常なスペクトル線幅となる。Set_Aのスペクトルにみられるような線幅の増加現象は、"Radiation damping[1]"と呼ばれ、NMR測定ではしばしば問題になる現象である。

図2 DPPH粉末試料のキャビティへの配置とESRスペクトル
図2 DPPH粉末試料のキャビティへの配置とESRスペクトル

図2 DPPH粉末試料のキャビティへの配置とESRスペクトル

Reference: [1] N. Bloembergen and R. V. Pound, Phys. Rev. 95, 8 (1954).

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