超強磁場を用いた固体25Mg NMR ~バクテリオクロロフィルC複合体クロロゾームへの応用
NM080005
Mg原子は生体物質で重要な役割を果たしており、NMRによる研究が期待されています。
しかし25Mgは低い周波数で共鳴する低γ核であり、また固体状態で広い線幅を与える四極子核であるため、感度が低く測定は困難とされていました。しかし、強い静磁場を用いることで感度は飛躍的に向上し、21.8 T超強磁場(1H周波数: 930 MHz)は14.1 T(1H: 600 MHz)の3倍以上、さらに9.4 T( 1H: 400 MHz)の実に10倍もの高感度を与えます。
ここでは、物質材料研究機構21.8T JNM-ECA930を用いて、クロロゾームにおけるバクテリオクロロフィルcの積層構造が明らかにされた研究例[1]をご紹介いたします。
*本研究は、関西学院大学 小山泰先生、神戸市外国語大学 長江裕芳先生、物質材料研究機構 清水禎先生 との共同研究によるものです。
クロロゾームは緑色光合成細菌に含まれる光収穫系器官で、バクテリオクロロフィル c (BChl c;図1) が凝集した複合体です。クロロゾームではBChl c がどのような積層構造を取っているかに興味が持たれ、超強磁場25Mg固体NMRが構造決定のひとつの決め手となりました。
21.8 T超強磁場を用いることで、クロロゾームの25Mg MAS NMRスペクトルが80時間という従来は考えられなかった短時間で測定されました(図2)。
スペクトルから、クロロゾームには四極子相互作用が大きなMg (サイト1)と相互作用の小さなMg(サイト2)の2種類が存在することが分かります。
図3の模式図に示すように、サイト1ではMgに配位するOH基と側鎖の立体障害によりMg原子が環平面からずれ、Mg原子周りの結晶場の対称性が低くなっています。これに対し、サイト2では立体障害がなく、OH基は水分子と共にMg核に高い対称性をもった環境を与えていると考えられます。
このような考察から、クロロゾームではBChl c が図4のような積層構造を取っていると結論づけられました。
こうして、超強磁場NMRシステムは生体物質といった実試料における低γ核の測定にも有効であることが示されました。