TOSSからPASSへ
NM080011
固体MAS NMRでは高速試料回転技術の進歩により、スピニングサイドバンドがないスペクトルを観測しやすくなって来ました。しかしながら、強い静磁場を利用する場合や、195 Ptのように化学シフト異方性が大きな核種に対する測定では、依然としてサイドバンド除去技術が必要とされます。ここではよく知られているTOSS(TOtal Sideband Suppression)の代替法として、PASS(Phase Adjusted Spinning Sideband)法をご紹介します。
下図は超強磁場21.8Tで測定した13C CPMASスペクトルの一例です。試料回転速度を20kHzとしても多くのスピニングサイドバンドが現れています。
*測定には物質・材料研究機構、清水禎様のご協力を仰ぎました。
TOSS法を適用した場合、測定条件によっては下のように、共鳴線の強度が負になったり、大きく損なわれたりします。TOSS法ではサイドバンドの位相を撹乱して不要なピークを除去する際、必要なセンターピークまでも影響を受けてしまうからです。
PASS法はこの問題を解決します。
PASS法はサイドバンドを総和してセンターピークに集積するため、実質上、無限大速度の試料回転に相当するスペクトルが得られます。PASS法は2次元的に分離測定したサイドバンドを「ずらし変換」の後、総和します。日本電子では、このデータ処理が自動的に実行されるようプログラミングしていますので、容易にご利用して頂けます。測定には試料回転速度の長期的な安定性を必要とします。弊社のMASコントローラが威力を発揮します。
