Pure shift法のための装置コンディションチェック
NM210003
Pure shift 法は同種核を広帯域デカップリングしたスペクトルを得るための測定手法です。これにより通常1H-1Hのカップリングによって複雑に分裂する1Hスペクトルを単純化し"純粋な化学シフト (Pure shift)"の情報を得ることができます。
本測定法は複雑な1Hスペクトルを持つ試料の解析を手助けすることができます。一方で前準備無しでデフォルト条件で測定しても期待したスペクトルが得られるとは限りません。そこできれいなPure shiftスペクトルを得るために重要なNMR装置のチェック項目を紹介します。本資料の測定試料はすべて50 mg Sucrose in D2Oを使用しております。
① 分解能
Pure shift法の測定はSpin offの状態で測定します。そのためラジアルシム項 (X, Yシム項) が適切でなく、Spin offになった際にLOCK強度が半分以下に低下する場合、通常の1Hスペクトルの場合と同様にPure shiftスペクトルも各信号の対称性が悪く、線幅の広い信号になってしまいます。図1の a) と b)、および c) と d) を比較するとわかるように明らかに線形に差があることがわかります。そのためPure shift法を測定する前にSpin off時の1Hスペクトルの分解能が適切かどうか確認することが重要です。もし分解能が不十分な場合は3D shimming等でシム調整を行った後にPure shift法を行うことをお勧めします。




図1: 1Hスペクトル シム調整前 a), シム調整後 b).
Pure shiftスペクトル シム調整前 c), シム調整後 d).
② LOCK位相
NMR LOCKの位相がずれている状態ではPure shiftスペクトルにも影響を受けます。図2に示すようにlock位相がずれている場合、各信号に位相の歪みが確認できます。


図2: Pure shiftスペクトル lock位相 45degずらし a), 最適なlock位相 b).
LOCK 位相を調整するにはマニュアル制御画面でNMR LOCKをかけた状態で、①直接lock phaseを調整するか、②lock位相最適化を実行することで調整できます (図3)。1Hスペクトルで事前に分解能を確認後、lock位相のずれを合わせて確認および調整することをお勧めします。

図3: NMRソフトウェアDeltaのマニュアル制御画面
③ FG電源ユニットのOFFSET
FG電源ユニットのOFFSETがずれている場合、期待したPFGパルス強度が指定した値からずれて出力されてしまい、結果としてPure shiftスペクトルの線幅の増大、感度の低下等につながります (図4)。
OFFSETの確認および調整作業は図5のOFFSET部で行います。本作業は試料交換ごとに行う必要はありませんが、OFFSETがずれているとPure shift法に限らず通常の二次元NMRスペクトルにも影響が出てしまいます。そのため、月に一回程度、定期メンテナンスとして確認いただくようにするとよいでしょう。


図4: Pure shiftスペクトル offsetがずれた状態 a), OFFSETが適切な状態 b).


図5: FG電源ユニットOFFSET調整部の画像 10A電源使用時 a), 30A電源使用時 b).
- このページの印刷用PDFはこちら。
クリックすると別ウィンドウが開きます。
PDF 1.6 MB