アセチルアセトナート錯体の複合分析
ED2022-04
XtaLAB Synergy-ED および日本電子装置によるアセチルアセトナート錯体の分析
結晶化が困難な遷移金属錯体分子などについては、 XtaLAB Synergy-EDによる微小結晶の電子回折構造解析が有効です。
アセチルアセトナート(acac)は、二座配位子として様々な遷移金属錯体を作ります。また配位子と中心金属の相互作用から、八面体や四面体などの分子構造を形成します。以下の図は、Cr(acac)3、VO(acac)2 およびCu(acac)2 錯体のXtaLAB Synergy-EDによる分子構造の解析結果と3d軌道の模式図です。
XtaLAB Synergy-EDによるCr(acac)3 、VO(acac)2 およびCu(acac)2錯体微小粒子の単結晶電子回折構造解析結果
正八面体構造形アセチルアセトナート錯体の分子構造
錯体分子の分子構造は、質量分析計SpiralTOF™-plus 2.0による精密質量測定や、核磁気共鳴装置ECZ Luminous™シリーズによる配位子の分析から詳細な解析が可能です。以下は、Rh(acac)3錯体のMS、NMRおよびXtaLAB Synergy-EDによる測定結果です。精密質量と配位子の分析結果から、Rh(acac)3錯体分子の構造を調べることができます。またXtaLAB Synergy-EDでは、アセチルアセトナート錯体を微小結晶のまま単結晶電子回折構造解析を行うことが可能です。MSおよびNMR分析で得られた化学構造情報を用いて電子回折結果を精密化し、最終的な分子立体構造を決定します。
上 : JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 2.0の精密質量測定による
Rh(acac)3錯体分子の組成式推定
下 : JNM-ECZL500によるRh(acac)3錯体の溶液NMR 1Hスペクトル
XtaLAB Synergy-EDによるRh(acac)3錯体
微小粒子の単結晶電子回折構造解析結果
正八面体構造形アセチルアセトナート錯体のスピン状態
六配位八面体形におけるRh(acac)3錯体については、d電子配置の基底状態について高スピン状態 4d6 S = 2 もしくは低スピン状態 4d6 S = 0の二つの状態が考えられます。一方Cr(acac)3錯体については、取り得るd電子配置は一つとなり、d3 S = 3/2の常磁性を示すことが考えられます。以下は、Rh(acac)3およびCr(acac)3錯体の1H NMRスペクトルです。 Cr(acac)3錯体では、Cr3+によるFermi-contact 相互作用により、配位子由来のピークが大きくシフトし広幅化します。一方Rh(acac)3錯体では、Fermi-contact 相互作用による影響は見られず、低スピン状態 4d6 S = 0 の電子配置であることがわかります。
緑 : JNM-ECZL500によるCr(acac)3錯体の溶液NMR 1Hスペクトル
茶 : JNM-ECZL500によるRh(acac)3錯体の溶液NMR 1Hスペクトル
アセチルアセトナート錯体の磁化率と中心金属の電子配置
錯体の構造において、中心金属の電子配置は重要な要素です。実際の電子配置における不対電子の数は、磁化率の測定から推定することが可能です。磁化率は、微視的な現象であるd電子状態と、巨視的な磁化という現象を特徴づける物理量です。常磁性試料におけるNMRスペクトルは、試料の磁性を直接反映します。この効果から錯体の磁化率を測定し、中心金属イオンの電子配置を推定できます (Evans method [1])。電子スピンに起因する常磁性の磁化率と不対電子数の関係から、中心金属の電子配置について解析が可能です。以下は、Cr(acac)3、VO(acac)2およびCu(acac)2錯体におけるNMR磁化率測定結果です。予想されたスピン状態と良く一致しました。
[1] D. F. Evans, J. Chem. Soc. 1959, 2003.
[2] C. Kittel, 固体物理学入門下 (第 7 版), 丸善, 1998.