ポリイミドフィルム不良箇所のCLEM解析
EM2023-01
はじめに
肉眼では均一に見えるポリイミドフィルムも蛍光顕微鏡で観察すると、他と比べて強い自家蛍光を持つ箇所が見られる。特にUV励起青色蛍光で顕著であるが、光学顕微鏡 (LM) の分解能ではその原因を明らかにすることはできなかった。そこで、より高い分解能を持つ透過電子顕微鏡 (TEM) で観察するために、ポリイミドフィルムの超薄切片を作製し、SiN Window Chipを用いたOn Chip CLEM観察により蛍光励起された部位の同定および高分解能観察を試みた。
SiN Window Chip
SiN Window Chip (図1) は、高強度のSiN膜を使用したTEM用試料台で、一般的なTEM用グリッドで生じるバーによる視野カットがなく、広域観察や連続切片の観察に最適である。また耐薬品性もあるのでそのまま染色することが可能である。光学顕微鏡観察用ホルダー (図2) を使用することで光-電子相関電子顕微鏡法 (Correlative light and electron microscopy: CLEM) を簡単に行うことができる。


図1. SiN Window Chipの外観
(a) 全体 (b) 超薄切片を回収した状態



図2. SiN Window Chipのスターターキット (P/N 783131836)
(a) 専用リテーナー (b) 専用リテーナーを載せたチップ取付治具 (c) 光学顕微鏡観察用ホルダー
専用リテーナーは表、裏関係なく光学顕微鏡観察用ホルダーにセットすることができるので、正立顕微鏡、倒立顕微鏡ともに使用可能である (図3)。


図3. 光学顕微鏡での使用例
(a) 正立顕微鏡で観察する場合 (b)倒立顕微鏡で観察する場合
On Chip CLEM 観察
On Chip CLEM観察は、SiN Window Chip上の超薄切片をLMとTEMの両方で観察する手法である。具体的な観察手順を図4に示す。
【手順】
- ポリイミドフィルムを樹脂に包埋し、超薄切片をSiN Window Chipに回収する。
- 1のSiN Window Chipを専用リテーナーにセットする。
- 2ののリテーナーをLM観察用ホルダーにセットし、LM観察 (UV励起青色蛍光観察) を行う。
- 2ののリテーナーをTEM用ホルダーにセットし、TEM観察を行う。
- LM画像とTEM画像を重ね合わせて、目的の構造を観察する (LLP-CLEM※)。
※LLP-CLEM
Limitless Panoramaの機能のひとつ。
LM画像、TEM画像上で共通箇所を3点クリックするだけで画像の重ね合わせが完了する。
図4. On Chip CLEMの流れ
TEM観察の結果を図5 に示す。CLEM観察の結果、より強い自家蛍光を持つ箇所には①異物の混入、②ボイドの形成が見られた。このようにCLEM観察を行うことで、LM観察だけでは分からない材料の品質評価を行うことができる。
図5. 不良箇所の微細構造観察