ラジカル種の弁別法 ‐ マーカーによる正確なg値の決定 ‐
ER230003
ESRはラジカルの定性および定量が可能な装置です。定量は信号の積分強度を求めて行い、定性は重要な要因の一つであるg値を次式から算出します。
hν = gµBH0(h : プランク定数、 ν : 共鳴周波数、 g : g値、 µB : ボーア磁子、 H0 : 共鳴磁場)
通常のESR測定は、試料ごとに共鳴周波数を設定して磁場掃引を行います。 従って、異なるラジカルは異なる磁場に信号を与えます。しかしながら、固体試料の場合にはセルを含む形状や大きさが異なると、ラジカル種が同じでも共鳴周波数が変化する場合があります。この場合、ラジカルの固有値であるg値が上式を満たす磁場に信号が現れます。
このことから、ラジカルの同定を行う場合には、正確なg値を求めることが重要であることが分かります。
測定例 : 形状の異なる炭素材料の測定

図1異なる形状の炭素材料のESRスペクトル
同質ですが、形状がそれぞれ異なる炭素材料3個を測定して得られたスペクトルを図1に示しました。図内の数字は測定ごとのESR信号の共鳴周波数になります。試料が同質にも拘わらず、信号の共鳴磁場に差が認められることが分かります。こうした差は、単純にスペクトルを重ねて比較すると、異なるラジカル種であると判断する間違いを引き起こす恐れがあります。
Mnマーカーによる正確なg値の決定
弊社の装置では、試料と同時測定可能なMnマーカーを標準搭載しています。本マーカーが与える信号は精密に評価されており、試料のg値を簡単に決定できるプログラムと共に提供されています。
図2に、図1で測定した試料をそれぞれMnマーカーと同時測定したスペクトルを示しました。Mnマーカーは全て共通ですが、試料形状に起因する共鳴周波数の違いを反映して、異なる磁場に出現しています。これらのスペクトルを、Mnマーカー信号位置を合わせて図3に表示しました。3個の試料は、含まれる量が異なることを表す強度の違いはありますが、共鳴磁場が一致していることが示されています。
更に同マーカーによる磁場補正を行い、g値および線幅を求めたところg=2.0024、線幅 : 0.14mTといずれも一致していることが明確となり、同一のラジカル種であることが確認できました。
図2 Mnマーカーと同時測定したスペクトル
図3 Mnマーカーによる補正を行った結果
まとめ
今回ご紹介したMnマーカーによる補正は、磁場測定器や周波数カウンターによる測定操作を行うことなく、得られたスペクトルから正確な補正を可能とする便利な方法です。特に軽元素由来のシャープな信号は、精密なg値を求めることが必要ですから、本システムは有用と考えられます。弊社HPより、ESRアプリケーションノートER050003もご参照ください。