溶媒による ESR 信号の線形変化②
ER260004
溶媒中のニトロキシラジカルの ESR 信号
溶液中に存在するラジカルの ESR 信号の線幅は、ラジカル分子の運動性の影響を受ける。また、不対電子と周囲の原子核との相互作用により、超微細構造が観測される。3 種類のニトロキシラジカルを超純水およびトルエンに 1.0×10-4 mol/L となるように希釈し、同一条件下で ESR 測定を行った。各 ESR 信号を比較したところ、超純水中では g 値が小さく、A 値が大きく、さらに線幅が狭いことが確認された(表1、図1)。これは、超純水中では粘度が低く分子間衝突が少ないため、溶質分子が高速で回転・拡散することに起因すると考えられる。ニトロキシラジカルは、磁場に対する分子配向に依存して g 値および超微細相互作用が異方的に変化する。しかし、水中では分子運動が ESR 測定の時間スケールよりも十分に速いため、その配向の異方性は平均化される。その結果、すべての分子が等しい磁場を感じている状態になることでmotional narrowing が生じ、鋭い ESR 信号が観測される。
一方、トルエンは水よりも粘度が高く、π 電子を有する溶媒であるため、ニトロキシラジカルの回転運動が抑制される。分子回転が遅い場合には異方性が十分に平均化されず、分子ごとに共鳴磁場がわずかに異なるため、ESR 信号は広い線幅を示す。このように、溶媒の物性、特に粘度や分子間相互作用は ESR 信号の線形に大きな影響を与える。したがって、溶液の ESR 信号を観測する際には、溶媒の特性を十分に考慮した上で、適切な試料調製および測定条件の設定を行うことが重要である。
表1. 溶媒によるニトロキシラジカルの ESR 信号の特徴

図1. 溶媒で希釈した試料の ESR 信号線形
(A) TEMPO、(B) 4-Oxo-TEMPO、(C) 4-Hydroxy-TEMPO
