ESR法とEDMR法による有機薄膜太陽電池のオペランド分析
ER260006
有機薄膜太陽電池の特徴と課題
薄くて軽く、経済性に優れた有機薄膜太陽電池(Organic photovoltaic Devices: OPVs、図1(a))は、従来の無機半導体由来の太陽電池にはない特徴的な機能を有していることから、次世代の再生可能エネルギーデバイスとして注目が集まっている[1]。実用化を阻む最大の課題は、その耐久性と安定性である(図1(b)参照)。OPV劣化の起源とメカニズムの解明には、分子レベルでの緻密な分析が求められる。

図1 (a) 有機薄膜太陽電池の概念図 (b) 有機薄膜太陽電池の光劣化によるJ-V曲線の変化を示す模式図
ESRとEDMR

図2 (a) ESRの測定対象と原理 (b) EDMRの測定対象と原理
一般に、半導体デバイスの機能を評価する際、導電性電子(Polaron)や捕捉電子(Trapped radical)の物性と再結合中心を介した電流経路の分析は、図1(b)に示したような電圧・電流といった巨視的な物理量に埋もれている分子レベルの挙動の解析を可能とする。図2(a)に示すように、電子スピン共鳴法(ESR法)は、有機伝導性材料の伝導性を担うPolaronやトラップされたラジカルのスピンを、磁化の変化として高感度かつ選択的に検出できる優れた手法である。一方、図2(b)に示す電気検出磁気共鳴法(EDMR法)は、再結合電流に関与する電子スピンを、電流の変化として機能選択的に検出可能な手法である。
代表的なOPVの活性層である、poly (3-hexylthiophene-2,5-diyl) (P3HT):[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester (PC61BM)のブレンド膜を用いたデバイスへ電圧印加した状態のオペランドESR・EDMRスペクトル測定の例を図3に示す。
オペランド ESR・EDMR 測定
測定に用いたP3HT:PC61BMブレンド膜を活性層とするOPVは、 Al電極と活性層との間にLiF層を挿入して電子輸送効率を上げている。このデバイスに、重要な製造工程であるポストアニール処理をすると、性能劣化が生じることが知られている[2]。図3(a)に示すESRスペクトルからは、界面の化学反応で生じるPC61BMアニオンラジカル由来の信号が確認され、電荷散乱因子として働いていることを示唆する。一方、図3(b)に示す、同じデバイスのEDMRスペクトルでは、これとは全く異なるスピン種であるP3HTポーラロンを再結合中心とする電流経路のみが検出され、異なるスピン種が異なる性能阻害要因に寄与していることを示唆していると考えられる[3, 4]。

図3 (a) ポストアニール処理したOPVのESRスペクトル (b) 同じOPVのEDMRスペクトル
両スペクトルともにデバイスに電圧印加した状態で測定。
References
[1] L. Ding, Organic Solar Cells: Materials Design, Technology and Commercialization (Wiley, 2022). [2] F. Li, J. Zhao, K. Yao, and Y. Chen, Chem. Phys. Lett. 553, 36 (2012). [3] D. Liu et al., Appl. Phys. Lett. 104, 243903 (2014). [4] T. Suzuki and K. Marumoto, J. Appl. Phys. 135, 075002 (2024).
