DIP-MS/MSによる顔料の識別
MSTips No. 409
はじめに
塗装や印刷などに使用される顔料は溶媒に溶かすことができないため、GC-MSでは測定できない。そのため、Direct Insertion Probe (DIP) -MSなどによるダイレクト分析が適している。しかし、ダイレクト分析では、GCによるカラム分離を行うことができないため、顔料成分と共に他の成分も検出され複雑なマススペクトルとなる。それにより、含まれている顔料成分を正確に理解することは困難となる。これに対し、DIP-MS/MSであれば、特定のイオンのみをMS/MS測定できるため、プロダクトイオンスキャン測定から顔料成分を確認することが可能となる。今回は、DIP-MS/MSを用いて、樹脂中に含まれる顔料成分の分析をおこなったので報告する。
測定条件
測定は、DIPとガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計JMS-TQ4000GC UltraQuad™ TQを使用した。測定試料として、ポリプロピレン (PP) のプラスチック製保存容器を凍結粉砕して粉末化した試料にフタロシアニン銅を添加した。Table 1に測定条件を示す。
Table 1 Measurement condition
DIP condition | |
---|---|
Heating Program | 80 °C (0.1 min) → 256 °C / min → 500 °C (8.3 min) |
MS condition | |
Ion Source Temp. | 280 °C |
Ionization Mode | EI+, 70 eV |
Measurement Mode | SCAN, Product ion scan |
Collision Gas | N2, 10% |
結果
DIP-MSによる測定結果
Fig. 1 (a) にNISTライブラリーデータとFig. 1 (b) にフタロシアニン銅のマススペクトル、Fig. 1 (c) に測定試料のマススペクトルを示す。フタロシアニン銅のみを測定した際には、NISTライブラリーデータと同等の結果が得られ、フタロシアニン銅であると確認できる。一方で、測定試料では、フタロシアニン銅と推測されるm/z 575のピークは観測されているものの、PPの熱分解成分の影響により明確ではない。
Fig. 1 Comparison NIST library data (a), mass spectrum of copper phthalocyanine (b) with mass spectrum of sample (c)
DIP-MS/MSによる測定結果
Fig. 2にプリカーサーイオンとしてm/z 575を用い、プロダクトイオンスキャン測定よって得られたプロダクトイオンスペクトルを示す。コリジョンエネルギーを10 eVと40 eVで測定を実施したところ、測定試料から得られたプロダクトイオンスペクトルは、フタロシアニン銅から得られるプロダクトイオンスペクトルと同等であった。この結果から、測定試料にフタロシアニン銅が含まれていることが確認できる。また、10 eVと40 eVの結果が示すように、コリジョンエネルギーが同じであれば、類似のプロダクトイオンスペクトルが得られる。つまり、取得したプロダクトイオンスペクトルをプライベートライブラリーに登録することで、ライブラリーサーチによる解析が可能となる。さらに、MS/MS測定で得られたプロダクトイオンスペクトルは構造情報を含んでいる。Fig. 3 (d) に示すように、主にヘテロ原子と配位結合箇所での開裂が生じていることが確認できた。
Fig. 3 Product ion spectra of copper phthalocyanine (CE: 10 eV) (a), sample (CE: 10 eV) (b),
copper phthalocyanine (CE: 40 eV) (c), sample (CE: 40 eV) (d)
まとめ
DIP-MSでは夾雑成分中から目的成分を確認することは困難となるが、DIP-MS/MSであれば特定のイオンを選択して、MS/MS測定を実施できるため、プロダクトイオンスペクトルを比較することで目的成分が含まれているか確認することが可能となる。さらにMS/MS測定から得られるプロダクトイオンスペクトルは、構造情報を含んでいるため構造解析にも有用となる。