msFineAnalysis AIを用いたジエチレングリコール中の不純物分析
MSTips No.432
はじめに
ジエチレングリコールは無色の粘稠な液体で、ポリエステルや不凍液など多岐に渡る化学薬品の原料に利用されている。既報MSTips No.043ではJMS-T100GC “AccuTOF™ GC”によるエチレングリコール類化合物中の不純物分析を実施したが、ライブラリサーチ未登録物質(=未知物質)だったため、組成式までは示唆できたが構造式はUnkownとなっていた。JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alphaの高感度測定が可能である特長と未知物質構造解析ソフトウェアmsFineAnalysis AIとの組み合わせは、微量成分の定性分析に期待できる。本MSTipsは、JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-AlphaでジエチレングリコールのEI/FI測定を行い、msFineAnalysis AIで定性解析した結果を紹介する。
実験
試料には市販のジエチレングリコールをそのまま用いた。
試料量1µLを、液打ちによるGC-EI/FI測定を行った。測定にはGC-TOFMS (JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha, 日本電子製) を用いた。イオン源はEI/FI共用イオン源を使用し、イオン化法はEI法および、ソフトイオン化法としてFI法を用いた。測定で得られたデータは統合定性解析ソフトウェアmsFineAnalysis AI (日本電子製) を用いて解析し、分子式と構造式を導出した。その他の詳細条件はTable 1に示す。
JMS-T2000GC, msFineAnalysis AI
Table 1 Measurement and analysis conditions
結果と考察
Figure 1にトータルイオンカレントクロマトグラム (TICC) を示す(上段:EI法、下段:FI法)。R.T.4min を中心に主成分のジエチレングリコールのピークが強く観測された。主成分の前には、エチレングリコールや1,4-ジオキサン-2-オールが溶出し、NISTライブラリサーチ結果と一致した。次に、主成分の溶出後に検出された微量成分(成分A, B, C)について、Table 2に統合解析結果を示す。統合解析で得た分子式情報はNISTライブラリーサーチ結果とは合致せず、これら成分はNISTライブラリー未登録成分であることが分かった。
Figure 1 TIC chromatograms of EI/FI method
Table 2. Integrated qualitative analysis result for the A to C components
Figure 2に成分A, B, Cの実測定のEI法とFI法のマススペクトルを示す。EI法では分子イオンが観測されていないことが分かる。そして、FI法でプロトン付加分子イオンを観測し、成分の組成式を得ることができた。次に、これら成分A, B, CについてAI構造解析した結果を示す。
Figure 2 Mass spectrum of EI/FI method
Figure 3にジエチレングリコールと成分A, B, C の実測EIマススペクトル(上段)と、予想した構造式(スペクトル右横)とその予測EIマススペクトル(下段)を示す。なおジエチレングリコールに関しては予測EIマススペクトルではなく、NISTライブラリーデータベース掲載のEIマススペクトルを下段に表示している。今回解析した3成分においては、 ジエチレングリコールの構造式から充分に考え得る構造式が解析結果として算出された。
Figure 3 Measured EI mass spectra and predicted EI mass spectra of the proposed structural formula for [A], [B], [C] in Figure 1.
結論
本MSTipsでは新たにJMS-T2000GC AccuTOF™ GC-AlphaとmsFineAnalysis AIによりジエチレングリコール中の不純物の分析を実施した。今回、NISTライブラリー未登録であった成分A, B, C に対してAI構造解析を実施し、ジエチレングリコールの不純物(関連物質)として充分考え得る構造式が得られた。微量な不純物の構造解析においても本手法が有効であることが示された。