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サーマルデソープション-GC-MSによる車室内揮発性有機化合物分析 [GC-QMS Application]

MSTips No. 435

はじめに

サーマルデソープション (TD) は大気や室内空気などの気体サンプルを導入するためのGC前処理装置である。また固体や液体サンプルから発生するガスにも使用可能である。Figure 1にTDの動作概要を示す。①サンプリング:ポンプ等を用いて気体サンプルを吸着剤入りのサンプルチューブに通気させて捕集する。②チューブデソープション:TD装置内でサンプルチューブを加熱し、脱離したガスを冷却したフォーカシングトラップに捕集する。③トラップデソープション:フォーカシングトラップを高速加熱し、脱離したガスを細いバンド幅でGCに導入する。これら2段階の加熱脱着により高感度かつシャープなクロマトグラムピークを得ることができる。

本MSTipsではTD-GC-MSの主要アプリケーションの一つである車室内揮発性有機化合物 (VOCs) の分析例について紹介する。実験にはTD-100xr (Markes International Ltd) とJMS-Q1600GC (JEOL) を用いた。分析条件は国際標準規格であるISO 12219-1およびJASO Z125をベースとした。

 

Figure 1

Figure 1 Overview of TD operation

TD-100xrの特徴

  • DiffLok cap : 測定時にサンプルチューブから外す必要がない

  • 電子冷却式のフォーカシングトラップ : 冷媒不要で-30°Cまで冷却

  • サンプル再捕集機能 : トラップデソープション時のスプリットフローを回収してサンプルを再利用

Figure 2 TD-100xr
Figure 2 Focusing trap
Figure 2

Figure 2 Features of TD-100xr

測定対象成分について

車室内における濃度指針値が設定されており、測定法としてTD-GC-MSが指定されているVOCs7成分を測定した。さらに追加検討中の3成分についても測定した。Table 1に厚生労働省が定めた濃度指針値を示す。

Table 1 Guideline values of concentration ( Left : current 7 components, Right : additional 3 components)

Name Concentration (μg/m3)
Toluene 260
Xylene 200
Ethylbenzene 3800
Styrene 220
Tetradecane 330
Dibutyl phthalate : DBP 17
Bis (2-ethylhexyl) phthalate) : DEHP 100
Name Concentration (μg/m3)
2-Ethyl-1-hexanol 130
Texanol 240
2,2,4-Trimethyl-1,3-pentanediol
diisobutyrate : TXIB
100

実験

現行7成分については混合標準液1、10、100 ngをサンプルチューブに添加した。追加3成分については混合標準液50 ngをサンプルチューブに添加した。ISO12219-1記載のサンプリング量3Lにおいては濃度0.3、3、30 μg/m3および15 μg/m3に相当する。また内部標準としてToluene-d8 47 ngをサンプルチューブに添加した。これら標準液添加の際には専用ツールを使用することで、簡単に全量捕集が可能である(Figure 3)。Table 2にTD-GC-MSの測定条件を示す。なお今回は現行7成分と追加3成分を個別に測定しているが、同時測定も可能である。

Figure 3 Solution loading tool

Table 2 Measurement conditions

TD conditions
Thermal Desorption TD-100xr
(Markes International Ltd)
Sample tube type Tenax TA
Tube desorption 280°C (10 min), 30 mL/min, Splitless
Focusing trap type General purpose Hydrophobic (T2)
Trap cooling 0°C
Trap desorption 280°C (3 min), 2 0mL/min, Split 20:1
Flow path temperature 200°C
GC conditions
Gas Chromatograph 8890A GC
(Agilent Technologies)
Column ZB-5MSi (Phenomenex)
30 m x 0.25 mm, 0.25 μm
Oven Temperature 40°C (2 min)-15°C/min
-320°C (10 min)
Carrier flow He, 1.0 mL/min
MS conditions
Spectrometer JMS-Q1600GC (JEOL Ltd.)
Ionization EI+:70 eV, 50 μA
Ion source temperature 250°C
Mass range Scan, m/z 45-500

現行7成分の測定結果

Figure 4に100 ng/tubeのTICクロマトグラムを示す。キシレンは異性体3種で2ピークとなるため、ピーク総数は8となっている。

 

Figure 4

Figure 4 TIC chromatogram of 100 ng/tube

 

Figure 5にDBP (m/z 149) およびDEHP (m/z 149) の抽出イオンクロマトグラム (EIC) および検量線を示す。いずれの成分も下限濃度で良好なピーク形状とS/N感度が得られた。また検量線の決定係数も0.999以上と良好な直線性が得られた。

 

Figure 5

Figure 5 EICs and calibration curves (Left : DBP, Right : DEHP)

追加3成分の測定結果

Figure 6に50 ng/tubeのTICクロマトグラムを示す。テキサノールは異性体2種で2ピークとなるため、ピーク総数は4となっている。

 

Figure 6

Figure 6 TIC chromatogram of 50 ng/tube

 

Figure 7に各成分の抽出イオンクロマトグラム (EIC) およびマススペクトルを示す。いずれの成分も良好なピーク形状とS/N感度が得られた。
※Texanol-1とTexanol-2は構造が異なるが、ライブラリーデータベースには一方しか登録されておらず、両ピークで同じ構造がヒットした。

 

Figure 7

Figure 7 EICs and mass spectra

まとめ

TD-100xrとJMS-Q1600GCにより車室内VOCs現行7成分および追加3成分を高感度かつ直線性良く分析することが可能である。これら装置は大気や室内空気など気体サンプルの分析において活躍が期待できる。

 

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