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JMS-S3000 “SpiralTOF™-plus3.0”およびケンドリックマスディフェクト(KMD)解析を用いた多元系共重合ポリエステルの解析

MSTips No.484

共重合ポリマーは、複数種類のモノマーが連結してできたポリマーである。 異なるモノマーを組み合わせることで、単一のモノマーからなるホモポリマーよりも多様な物理的・化学的性質を持つポリマーが得られる。 工業材料である接着剤、塗料およびコーティング剤等に用いるポリエステルの大半は「多元系共重合ポリマー」であり、モノマー種類やその混合割合は種々の性能に影響を与える要因となる。 本アプリケーションノートでは、多元系共重合ポリマーの解析における高分解能マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)の利点を紹介する。 MALDIは代表的なソフトイオン化の1つであり、ポリマー由来のイオンが主に1価イオンで生成するために、マススペクトル上のm/zはポリマーイオンの質量となる。 高質量分解能MALDI-TOFMSを使用すれば、繰り返し単位や末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、またそれぞれの分子量分布を算出することができる。 それゆえに 高分子材料分析によく使用される熱分解GC-MSやNMRと比較すると、MALDI-TOFMSはコポリマーをマススペクトルから直接的に確認できる手法といえる。 最近ではケンドリックマスディフェクト(KMD)法を用いることで、複雑な高質量分解能マススペクトルに含まれるポリマーシリーズを容易に可視化することができるようになった。今回はテストサンプルとして2元系共重合ポリエステルの2種混合物および4元系共重合ポリエステルを分析した事例を紹介する。

実験 

サンプルには、2種類の2元系共重合ポリエステル(AとB)の混合物、および4元系共重合ポリエステルCを用いた。 A, B, Cのそれぞれのモノマー構造式をTable1に示す。 マトリックスには2,5-DHBを、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaTFA)を用いた。 マススペクトルはJMS-S3000 “SpiralTOF™-plus3.0”の SpiralTOF 正イオンモードを用いて取得した。 それぞれのマススペクトルは、デアイソトープ処理を行い、msRepeatFinder V8を使用してKMD解析をおこなった。

Table 1 Monomer unit structures of binary polyesters A and B, and quaternary polyester C

2元系共重合ポリエステルの2種混合物の解析

2元系共重合ポリエステルの混合物のマススペクトルをFigure 1に示す。 ピークの間隔としては、2元系共重合ポリエステルA(モノマー質量 248u、228u)が主に確認された。 次にマススペクトルをピーク判定しデアイソトープ処理を行ったピークリストについてKMD解析を行った。 KMD解析では2元系共重合ポリマーはKMDプロット上で格子状のパターンとして確認できることが知られている。 ピークリストおよびKMDプロット(Base unit 248.105 u)をFigure 2に示す。 青色のプロットは、マススペクトルで主成分として観測されているポリマーシリーズである。 次に微量な成分として緑色と赤色の2元系共重合ポリマーのシリーズが確認できた。 緑色のシリーズは主成分である青のシリーズを平行移動した位置にあり、2元系共重合ポリエステルAと主鎖構造が同一で末端基の異なるシリーズである。 一方で赤色のシリーズは、青色とは異なるモノマーで構成される2元系共重合ポリマーであり、 ピーク間隔を調べたところ、2元系共重合ポリエステルBであることが分かった。 このようにマススペクトルからはでは判別しづらい微量成分共重合ポリマーのパターンを容易に識別できるのは、KMD解析の利点であるといえる。

Figure 1 Mass spectrum of the mixture of binary polyesters A and B.

Figure 2 Deisotoped peak list and KMD plot (base unit 248.105 u) of the mixture of binary polyesters A and B.

4元系共重合ポリエステルの解析

4元系共重合ポリエステルCのマススペクトルをFigure 3に示す。2元系共重合ポリエステルの混合物と比較して、より複雑なマススペクトルが得られた。 次にマススペクトルをピーク判定しデアイソトープ処理を行ったピークリストについてKMD解析を行った(Figure 4)。 赤線で囲った領域にいくつかの格子上パターンが重なったような複雑なパターンが観測されている。 その一部(緑枠)を拡大し、Table 1で示したモノマー単位が1つ増加したときにKMDプロット上でどの方向に増加するかを矢印で示したものをFigure 4右に示した。 ある特定の点を起点にすると4つのすべての矢印の先に点が存在することから4元系共重合ポリマーであることが確認できた。 このように複雑な共重合ポリマーのモノマー単位がマススペクトル中に含まれるか確認できる点もKMD解析の利点といえる。

まとめ

以上のように高分解能MALDI-TOFMSとKMD解析の組み合わせは共重合ポリマーの解析において有用である。 2元系共重合ポリマーの解析においては、KMDプロットは比較的単純であり、モノマー単位に関する情報が完全でなくとも解析は可能であった。 一方、4元系共重合ポリマーの解析においてはピーク間隔の組み合わせが複雑となるため、モノマー単位の事前情報が必要であると考えられる。

謝辞

多元系共重合ポリマーの解析にあたり、artience株式会社様より試料をご提供いただき、共同で解析方法の検討を実施しました。

Figure 3 Mass spectrum of the quaternary polyester C.

Figure 4 Deisotoped peak list and KMD plot (base unit 248.105 u) of the quaternary polyester C.

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