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JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus3.0" とサイズ排除クロマトグラフィーを組み合わせた多分散度の大きい合成高分子末端基解析と末端基変化可視化方法の検討

MSTips No. 495

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計 (MALDI-TOFMS) は、幅広い質量範囲で1価イオンを検出できるため、ポリマーのキャラクタリゼーションにおいて分子量分布の確認、末端基組成推定など構造解析の強力なツールである。しかし、多分散度の大きいポリマーの分析では、種々の要因により高分子量域のイオン強度が低くなる「マスディスクリミネーション」が課題である。一方で、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) はポリマーの分子量による分離が可能であるが、末端基の識別は困難である。そのため、多分散度の大きいポリマーをSECで分子量分布に応じて分画し、多分散度を小さくした上でMALDI-TOFMSでキャラクタリゼーションを行うことが効果的であることが知られている。本報告では分子量5万以下の多分散度の大きいポリマー試料をSECと高精度MALDI-TOFMSを組み合わせて末端基解析を行った。特に (i) SEC分取からMALDI-TOFMS前処理の効率化の検討、(ii) SECにより多分散度を小さくした分画試料のマススペクトルに対して末端基変化の視認性向上の検討、(iii) 高分子領域 (分子量1~2万) での末端基解析について検討したので報告する。

実験

2種類の末端基の異なるポリカプロラクトン (PCL) を1.0 mg/mL含むように調製した。SECでの分画は、試料溶液を100 µLインジェクションし、Table1の条件で実施した。SECからの溶出物は、LC-CollectIR (エス・ティ・ジャパン社製) と熱分解アタッチメントを用いてガラス製エコカップに分取した。本システムでは溶出液を100 °Cのノズルから窒素ガスとともに噴霧させ、溶媒を揮発させながら分取可能である。MALDI-TOFMSでは1回の測定で使用できる試料溶液量は10 µL程度以下である。分取と同時に溶媒揮発させることで溶出液の濃縮が不要となり前処理時間の短縮が可能となった。また溶媒を揮発させて分取するため複数回分取で試料量を増やすことも可能であり、今回は3回分取を行った。MALDI-TOFMSの試料調製では、THF 10 µLをエコカップに加えた分画溶液とマトリックス溶液 (DCTBを使用) を1 µLと10 µL混合した溶液を1 µLプレートに滴下乾燥した。なおカチオン化剤溶液 (NaTFA) は事前にプレートに滴下乾燥した。その後、JMS-S3000のSpiral正イオンモードにて測定を行った。マススペクトルのRemainder of Kendrich Mass (RKM) 解析はmsRepeatFinderを使用した。

Table 1 Condition of SEC measurement

Eluent THF
Detector Differential Refractive Index Detector
Column TSKgel GMHHR-N (30 cm) × 2
(TOSOH)
Flow rate 1 mL/min

結果

PCLの混合物をSECで6つの分画に分取した結果をFigure 1 およびTable 2に示す。Figure 1の黒線は分画前のSECのクロマトグラムである。次にSECで分画した6つの分画を再度SEC測定を行うことで、分画ごとのポリマーの重量 (μg)、数平均分子量、重量平均分子量を算出した。各分画の多分散度を確認すると、1.1程度以下に小さくなっていることがわかる。

Figure 1

Figure 1 SEC chromatograms before and after fractionation

Table 2 Information of SEC fraction #1-6

Fraction
Number
Amount
(µg)
Mn Mw D
1 6.4 48,233 50,457 1.05
2 74.4 24,438 26,100 1.07
3 107.4 12,722 13,477 1.06
4 46.3 6,691 7,019 1.05
5 8.9 3,439 3,612 1.05
6 1.5 559 624 1.12
Total 245

PCL混合物のSEC分画前のマススペクトルと、SECで6つの分画に分取し測定したマススペクトルをFigure 2に示す。Fraction #1~6のマススペクトルからPCLが高分子量域から順に溶出したことを確認できた。またFraction #1は分取前に観測できなかったm/z 30,000以上の成分を観測することができ、マスディスクリミネーションの影響を低減できていることがわかる。また、Fraction #2のマススペクトルのm/z 15,000程度のマススペクトルの拡大図と同位体パターンのシミュレーションを比較をし、よく一致していることがわかる。このような同位体パターンの分離はm/z 20,000程度まで確認できた。一方、マススペクトルを並べることで分子量分布の変化は容易にわかるものの、分子量による末端基の変化については理解することが難しい。そこで、Fraction #1~6のマススペクトルをRKMプロット (base unit 114.143u) に変換した (Figure 3)。その際には、SECの分取結果 (Table 1) から得られている各Fractionの重量の情報を用いてイオン強度の規格化を行った。その結果、低分子領域では環状オリゴマー (シリーズA) が、質量が大きくなるにしたがい、両末端基の合計がC4H10O (シリーズB)、C4H10O3 (シリーズC) が主成分となることが理解しやすくなった。ここでシリーズBおよびシリーズCの両末端基の合計は、m/z 2000の領域の精密質量解析から得た。

Figure 2

Figure 2 Mass spectra of PCL before and after SEC fractionation.

Figure 3

Figure 3 RKM plot of SEC fraction #1-6.

最後に、分子量1万を超える領域で、精密質量による末端基解析が可能か検討を行った。Figure 4は、Fraction #2で得られたシリーズBを用いて自己キャリブレーションを実施したときの質量誤差 (ppm) のばらつきを示すものである。この時キャリブレーションにはMost Abundantなピークを使用している。分子量12000~24000程度までのばらつきは、概ね2 ppm以内に収まっており、質量としては10~20 mDa程度の誤差となる。飛行時間質量分析計の誤差はppm単位で表現した場合、質量範囲によらないことからこの結果は妥当であると考えられる。次にm/z 15000付近を拡大図をFigure 5に示す。マススペクトルにはシリーズBおよびCが主に観測されており、その質量差はO2分に相当する。2つのシリーズのMost Abundantなピークの誤差を調べると、32.003u, 31.990u, 31.991uとなり、O2の精密質量31.990uと比較するとFigure 4の結果の妥当性を示すものである。以上のように分子量10000を超える質量域では、モノアイソトピックピークの検出が難しいことから、Most Abundantなピークの精密質量および同位体パターンを用いることとなるが、末端基構造推定は可能であることが示唆された。

まとめ

SECからの分取物を溶媒を揮発させながら、複数回繰り返し分画できる装置を用いて、MALDI試料調製までの作業を効率化した。SECとMALDI-TOFMSを組み合わせることで高分子領域のマスディスクリミネーションの影響を低減でき。さらに各分画のマススペクトルをRKMプロットで表示することで分子量にしたがった末端基の変化も可視化した。高分解能MALDI-TOFMS "SpiralTOF™-plus 3.0"による同位体パターンのMost Abundantなピークを使用することで、分子量1~2万で末端基解析の可能性も示した。

謝辞

本結果は、株式会社東ソー分析センター様、株式会社 エス・ティ・ジャパン様との共同実験の成果です。

Figure 4

Figure 4 Mass error of the most abundant peaks in series B

Figure 5

Figure 5 Mass differences between series B and C at m/z 15000.

分野別ソリューション

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