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窒素キャリアガスを用いたGC-MS/MS法による食品中残留農薬の分析例

MSTips No.496

概要

質量分析の分野においてヘリウムは主にガスクロマトグラフのキャリアガスとして利用されてきたが、特に近年は深刻化している世界的な物流網の混乱に加え、供給プラントのトラブルによる減産や政治的・経済的要因によって、長期に渡り供給が不足している状況であり、価格も高騰し続けている。今後も継続して質量分析を実施するためにはヘリウムの代替品として使用可能なキャリアガスの選定が必須と言える状況になりつつある。
代替キャリアの候補としては、窒素または水素が一般的であるが、それぞれのガス種の特徴を把握した上での運用が望ましい。窒素キャリアガスの場合、安価・安全・不活性とキャリアガスとして優れた特性を持つが、分離効率を維持するためには平均線速度をかなり小さな値に設定する必要があるため、従来法より測定時間が長くなる。また、検出感度が一般的には1桁程度低下すると言われているため、ヘリウムキャリア使用時には対応可能だった低濃度試料の検出が困難となる可能性がある。
代替キャリアへの変更には従来使用していた測定条件の見直しが必要となるが、今回残留農薬一斉分析へ適用するにあたり、水素と比較して安全性が高く、代替キャリアとしては使用しやすいガス種であると考えられる窒素を選択し、各種測定条件の最適化を行った。
本報告ではGC-MS/MS法による食品中残留農薬一斉分析に関して窒素キャリアを使用した場合の分析例について紹介する。

実験

1.試料条件
 使用試薬:関東化学社製、農薬混合標準液 48, 63, 70, 73, 77, 79, Pesticide-Mix 1598
 試料調製:各1ppm 農薬混合標準液を調製 (計335成分を測定対象とした)
 試料濃度:5, 10, 20, 50, 100ppb の農薬混合標準液を調製し、5点検量線を作成
 試料導入量:2μL (+疑似マトリクス:林純薬工業社製 SFA10mixを1μL共注入)

2.GC条件
 ガスクロマトグラフ:7890B (Agilent製)
 カラム:VF-5MS (Agilent製、長さ 30m、内径 0.25mm、膜厚 0.25μm)
 オーブン昇温条件:50℃(1min) - 125℃(25℃/min、0min) - 300℃(10℃/min、6min) - 320℃(20℃/min、6min)
 注入口温度:250℃
 注入口モード:スプリットレスモード (パージ時間:1min)
 カラム流量:0.7mL/min (コンスタント流量)
 キャリアガス:窒素

3.MS条件
 質量分析計:JMS-TQ4000GC (JEOL製)
 使用イオン源:標準EIイオン源
 測定モード:SRM
 SRMモード:排出周期可変(検出感度に応じて5msおよび10msに設定)
 イオン源温度:280℃
 インターフェイス温度:300℃

JMS-TQ4000GC

結果

窒素キャリア使用時、イオン化電圧を下げることで窒素イオンの生成を抑制し、結果として検出感度が向上する可能性があることが知られている。一般的な測定条件において使用されるイオン化電圧は70Vであるが、今回20Vに設定したデータと比較を行ったところ、20Vに設定した方が感度が良好な成分が多数確認されたため、本報告ではイオン化電圧を20Vに設定して測定を実施した。
測定対象に設定した335成分に関して、5ppbの検出が十分に可能であり、検量線の直線性も良好と判断した成分数は計328成分であった。「オリザリン、フェンスルホチオン、イソキサチオンオキソン、イマザメタベンズメチルエステル、チアクロプリド」の5成分に関しては5ppbの検出は可能であったが、検量線の直線性や面積再現性もしくはクロマトグラム形状等、何らかの項目に対して改善が必要と判断した。なお、本検討において5ppbの検出自体が困難であった成分は、「クロルフェナピル、ジオキサチオン」の2成分であった。
測定可能と判断した328成分の中から一例として、カプタホール、シフルトリン、p,p’-DDD の3成分に関して5ppbのEICおよび検量線を図1~3に示す。
次に、測定可能と判断した全328成分の5ppb 面積再現性(n=3)および検量線の相関係数を図4に示す。
全328成分中310成分がCV=20%以内と良好な再現性を示した。また、検量線の相関係数 r=0.999 以上を示した成分数が310成分と直線性に関しても問題無いことが確認された。

図1 カプタホール 5ppbのEICおよび検量線

図2 シフルトリン 5ppbのEICおよび検量線

図3 p,p’-DDD 5ppbのEICおよび検量線

図4 STD 5ppbの面積再現性および検量線の相関係数

まとめ

窒素キャリアガスを用いたGC-MS/MS法による食品中残留農薬一斉分析への適用例として、測定条件に関する検討を実施した後に農薬混合標準液の測定を行い、5ppb~100ppbの範囲で検量線を作成した。
測定対象として設定した農薬全335成分中、計328成分が5ppbまで問題無く検出可能であり、今回検討を行った全成分中98%の農薬化合物が窒素キャリアガスを用いても定量可能であるという良好な結果が得られた。なお、この結果はMSTips No. 394 で報告した水素キャリアガスを用いた場合の検討結果とほぼ同等であった。
各代替キャリアガスの検出感度を比較した場合、一般的には窒素より水素の方が高感度であると言われることが多いが、使用するキャリアガスに合わせた測定条件の最適化をしっかりと実施することで、窒素キャリアガス使用時においても十分な感度で分析が可能であることが確認された。

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