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JMS-S3000 NewSpiralTOFTMを用いた標識化N型糖鎖の組成解析および構造解析

MSTips No.519

はじめに

N型糖鎖は、アスパラギンの側鎖のアミド基にN-Acetylglucosamine(GlcNAc)が結合した糖鎖を指す。タンパク質の翻訳後修飾の一つとして、その構造や機能に重要な役割を果たしている。さらに、シグナル伝達や免疫応答などの生体機能にも関与しており、その構造変化は疾患の発症や進行に密接に関連していることが知られている。特にがんや先天性糖鎖異常症においては、N型糖鎖がバイオマーカーとして注目されている。そのため、N型糖鎖の正確な構造解析は基礎研究のみならず臨床においても重要となる。そこで、本アプリケーションノートでは、標識化N型糖鎖(Fig. 1)を測定試料に用い、JMS-S3000のSpiralTOFモードによる精密質量測定とTOF-TOFモードによる構造解析を実施したので報告する。

測定条件

マトリックスは、2,5-Dihydroxybenzoic Acid(DHB、富士フイルム和光純薬製) 10mg/mL (50%ACN-0.1% TFA水溶液)を用いた。測定試料は、標識化N型糖鎖3-G1GN2M3GN2-2-Aminobenzaide(3-G1 2AB、東京化成工業製)50 pmol/µL 水溶液を用いた。測定試料溶液をターゲットプレートに0.5 µLスポットし、続けてマトリックス溶液を0.5 µLスポットして風乾させ、共結晶を作成した。SpiralTOFモード(正イオンモード)により、3-G1 2ABのピークを確認すると共に精密質量測定を実施した。そして、TOF-TOFモード(正イオンモード)により、構造解析を実施した。なお、標識化N型糖鎖3-G1 2ABは、GlcNAcとMannose(Man)およびgalactose(Gal)から構成されている。

Fig. 1 The structure of Labeled N-glycan 3-G1 2AB(a) and Symbol Nomenclature for Glycans(b)

測定結果

SpiralTOFモードによる測定結果

SpiralTOFモードによる測定結果をFig. 2に示す。標識化N型糖鎖3-G1 2ABはNaイオン付加分子として観測された(Fig. 2‐a)。観測されたピークの質量分解能は70000以上の値を示した。次にAngiotensinI(AngI)とAdrenocorticotropic Hormone Fragment 1-17 human, rat(ACTH1-17)を内部標準試料として精密質量測定を実施した(Fig. 2-b)。観測された標識化N型糖鎖3-G1 ABの実測値は1621.5982であり、計算値1621.5973に対し、質量誤差は+0.9 mDaを示した。Fig. 3に標識化N型糖鎖3-G1 2ABのNaイオン付加分子の同位体パターンを示す。観測された同位体パターンは理論値と類似した同位体パターンを示した。

 

Fig. 2 Mass spectra of Labeled N-glycan 3-G1 AB(a) and Labeled N-glycan 3-G1 2AB with peptide mix(b).

Fig. 3 Comparison of theoretical isotope pattern(a) and obtained isotope pattern(b).

TOF-TOFモードによる測定結果

TOF-TOFモードによって得られたm/z 1621.6からのプロダクトイオンスペクトルをFig. 4に示す。m/z 23のピークが観測されていることから、得られた標識化N型糖鎖3-G1 2ABのピークが確かにNaイオン付加分子であることが分かる。また、糖鎖の還元末端側に電荷が保持されたプロダクトイオンである m/z 392, 595, 1122などのX イオン()およびm/z 364, 567, 1093などの Y イオン()が特徴的に観測された。X イオンは 糖環内での開裂によって生じ、糖環構造に含まれるO原子を保持する特徴的なプロダクトイオンを与える。一方、Y イオンは グリコシド結合の開裂に伴って生成し、糖鎖の骨格構造を反映したイオンとして知られている。実際に得られたYイオンから、GlcNAc() 、Man()及びGal()に由来するプロダクトイオンが確認された。これらの結果から、標識化N型糖鎖3‑G1 2AB の構成糖が明確に同定できた。

 

Fig. 4 Product ion spectrum of Labeled N-glycan 3-G1 2AB and proposed assignments

まとめ

標識化N型糖鎖をMALDI-TOFMSにより測定した。SpiralTOFモードでは、高い質量精度で目的のピークを観測した。また、TOF-TOFモードでは、糖環構造に由来するXとYイオンが観測され、構成糖の同定が可能であった。以上の結果から、JMS-S3000によって糖鎖の組成解析と構造解析が可能であることが示された。

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