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ダイレクト‐EGAMS法による鉄鋼片中の水素分析

MSTips No.412

はじめに

昨今、地球環境保全の課題として、脱炭素社会すなわちカーボンニュートラルへの取り組みが進められており、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減を強化する必要がある。その中でも、鉄鋼や化学などの素材産業では、現在の製造工程で石炭や石油を多く使用するため、大量のCO₂が排出されることから、特に製鉄プロセスでは、水素の活用が期待されている。一方で、鉄鋼材中に吸収された水素による鉄鋼材の強度が低下する水素脆化も課題として存在しており、これらの取り組みの際には、鉄鋼在中の水素の存在を確認する分析技術が必要となる。

そこで、熱分解装置を用いて鉄鋼片を加熱した際に発生する水素を直接質量分析計で検出するダイレクト‐EGAMS法を用いた分析例を紹介する。

測定条件

試料には、市販の鉄鋼ピン(7.9ppmの水素含有品)を用いた。測定には熱分解装置であるマルチショットパイロライザー(EGA/PY-3030D フロンティアラボ社製)をGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製)に接続したシステム を用いた。

試料は、加熱炉において、50℃から1050℃までを毎分40℃で昇温され、水素をはじめとする発生ガスは、GCオーブン内に接続されたフューズドシリカ製のキャピラリーブランクチューブ(長さ2.5m, 内径0.25mm)にスプリット比4:1の比率で導入、さらにクロマト分離されることなく、直接質量分析計で検出された。熱分解 GC/MS測定の詳細条件をTable 1に示す。

JMS-Q1600GC UltraQuadᵀᴹ SQ-Zeta

Table 1 Measurement condition

Py
サンプル量 EI: 73.3~131.0mg
熱脱着温度 50℃→40℃/分→1050℃(5分保持)
アタッチメント オートショットサンプラー(AS-1020Eフロンティアラボ社製)
GC
カラム フューズドシリカ製のキャピラリーブランクチューブ
2.5 m×0.25 mm I.D.
注入口温度 300℃
オーブン昇温条件 300℃ (一定)
注入モード Split 4:1
キャリアガス He, 2.5 ml/min(Constant Flow)
MS
イオン源温度 250℃
インターフェース温度 280℃
イオン源 EI/PI共用イオン源
イオン化法 EI法 (70 eV, 50 µA)
測定モード Scan (m/z 2 - 50)

結果と考察

鉄鋼ピン(水素7.9ppm含有)のダイレクト‐EGAMS測定結果を、Figure 1に示した。上段が水素をトレースしたm/z2の抽出イオンクロマトグラム(EIC)、下段が保持時間約5分~20分の間の平均マススペクトルである。EICの横軸のスケールには、保持時間と共に試料の加熱温度も示している。

EICより、加熱温度約250℃から約450℃にかけて1段階目、そして約450℃から約850℃の範囲で約600℃をピークトップとした2段階の温度領域でそれぞれ水素の検出と思われるプロファイルが確認された。

Figure 1  Extracted ion chromatogramEICand Mass spectrum of Hydrogen

次に、鉄鋼試験片測定後、同一の試料をそのまま再測定した結果とさらに試験片2個の測定における水素検出の比較EIC結果をFigure 2に示した。また、鉄鋼試験片1個及び2個における試料重量と得られた水素のピーク面積値、そして、試料重量とピーク面積値の相対係数をTable 2に示した。鉄鋼試験片の測定後の再測定では、水素のピークが不検出であることから、1回の測定によって試験片中の水素は、ほぼ脱離されると推測される。また、試験片を約2倍の2個にすることで、水素の検出量もほぼ2倍程度に増加していることから、試料重量と水素の検出量との間での良好な相関が得られた。

さらに、鉄鋼試験片1個の3回の繰り返し測定によるEIC結果をFigure 3に、そして、試料重量と得られた水素のピーク面積値、試料重量とピーク面積値の相対係数をTable 2に示した。鉄鋼試験片3回の連続測定による水素のピーク面積の応答性及び再現性の結果は良好であることから、定量的な分析も十分可能と推測された。

Figure 2 Extracted ion chromatograms of Hydrogen (a: one steel test piece, b: Remeasurement of the same sample, c: Two steel test pieces)

Number of samples Weight
(㎎)
Peak area relative factor
1 73.3 177518988 1.00
2 131.0 311241623 0.98

Table 2 Relationship between sample weight and peak area value for 1 and 2 steel test pieces

Figure 3 Extracted ion chromatograms for hydrogen repeated three times

Number of samples Weight
(㎎)
Peak area relative factor
1st 83.4 201835655 1.00
2st 74.7 181374100 1.00
3st 73.3 178375335 1.01

Table 3 Relationship between sample weight and peak area value in three repeated measurements of steel specimens

まとめ

本報告では、鉄鋼片中の水素に関して、試料を加熱した際に発生する水素を直接質量分析計で検出するダイレクト‐EGAMS法を用いた分析例を報告した。今回の結果から、鉄鋼片中の水素を検出する上で、定性的かつ定量的に良好な分析手法であることが確認された。

 

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