BOP系パルス (Optimal Controlによってラジオ波強度と位相を決定したパルス)
NM220014
はじめに
近年の高磁場NMRにおいて、13Cなどの広い化学シフト幅を持つ核の全ての信号を通常の矩形波パルスによって励起することは難しくなってきた。その問題を解決するために広帯域パルスと呼ばれる技術が開発されてきた。広帯域パルスは現在使用されている多くのパルスシーケンスの多くに組み込まれており、現代のNMRにおいて重要な要素の一つと言える。本アプリケーションノートでは広帯域パルスの一つ、BOP系のパルスについて説明する。
BOPパルス
BOPパルスはラジオ波強度および位相を絶えず変化させることで優れた励起プロファイルを達成したパルスである。ラジオ波強度および位相はoptimal controlによるシミュレーションにより決定されている。Inversionが可能なBIBOP、excitationが可能なBEBOP、inversionおよびrefocusの両方が可能 (universal rotationと呼ぶ) なBURBOPの3種類がある。例として、BURBOP18_10_600のラジオ波強度および位相の時間変化をFig. 1に示す。このように絶えずラジオ波強度および位相が変化しており、その中でどのように磁化が変化しているかはわからないが良い励起プロファイルが達成されるパルスである。


Figure 1 BURBOP18_10_600のパルスのラジオ波強度 (a) および位相 (b) の時間変化
ラジオ波強度および位相を絶えず変化させている。ラジオ波強度および位相はoptimum controlによるシミュレーションにより決定されている。
Deltaに搭載されているBOPパルス
弊社NMR解析用ソフトウェアDeltaにはTable 1に示すBOPパルスが搭載されている。各パルスは (p) b (i, e, ur) bopx (t) (m)_y_zの形で命名されている。Iはinversion, Eはexcitation、URはuniversal rotation (inversionおよびrefocus) をすることが可能である。xは90あるいは18の数字が入り、90degパルスあるいは180degパルスに対応する。(p) はphase-modulation型 (ラジオ波強度を動かさず、位相のみを変化させる) のパルスを意味し、(t) は時間反転 (詳細は後述)、(m) はmatching (1H, 13Cに同時にbibopあるいはburbopを使用する) を意味する。yは励起範囲 (kHz)、zはパルス幅 (us) を示す。
Table 1 Deltaに搭載されているBOPパルス
名前 | 励起範囲 (kHz) | パルス幅 (us) | 最大ラジオ波強度(kHz) | 名前 | 励起範囲 (kHz) | パルス幅 (us) | 最大ラジオ波強度(kHz) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
burbop18_10_600 | 10 | 600 | 10 | bebop90(t)_10_550 | 10 | 550 | 20 |
burbop18_37_11 | 37.5 | 1100 | 10 | bebop90(t)_37_550 | 37.5 | 550 | 10 |
burbop18_50_2m | 50 | 2000 | 15 | bebop90(t)_40_400 | 40 | 400 | 17.5 |
burbop18m_10_600 | 10 | 600 | 20 | bebop90(t)_40_500 | 40 | 500 | 17.5 |
pburbop18_50_2m | 50 | 2000 | 15 | bebop90(t)_40_2m | 40 | 2000 | 17.5 |
bibop18_11_100 | 11 | 100 | 20 | bebop90(t)m_10_550 | 10 | 550 | 20 |
bibop18_37_600 | 37.5 | 600 | 10 | bebop90(t)m_37_550 | 37.5 | 550 | 10 |
bibop18m_37_600 | 37.5 | 600 | 10 | pbebop90(t)_50_1m | 50 | 1000 | 15 |
BIBOP (Broadband Inversion By Optimized Pulse)
BIBOPはinversionパルスとして機能するBOPパルスである。Deltaには3つのBIBOPパルスが搭載されている (Table 1)。InversionパルスはBIPと呼ばれる別のパルスの性能が良いため、BIBOPはあまり使われない。矩形波、bibop18_11_100、とbibop18_37_600の励起プロファイルをFig. 2に示す。矩形波inversionパルスと比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。



Fig. 2 BIBOPの励起プロファイル (a) 矩形波 (b) bibop18_11_10 (c) bibop_37_600
矩形波inversionパルスと比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。シミュレーションはそれぞれ200kHzの励起範囲について、ラジオ波強度が0.45倍から1.55倍の範囲について行った。
BURBOP (Broadband Universal Rotation By Optimized Pulse)
BURBOPはinversionおよびrefocusパルスとして機能するBOPパルスである。Inversionには前述のとおりBIPパルスを用いることの方が多いため、refocusパルスとして用いられることが多い。DeltaにはTable 1にあるように5つのBURBOPパルスが搭載されている。矩形波、burbop18_10_600、burbop18_37_11、burbop18_50_2m、pburbop18_50_2mをinversionおよびrefocusパルスとして用いた場合の励起プロファイルをFig. 3に示す。矩形波パルスと比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。
Figure 3 矩形波およびburbopの励起プロファイルを示す。
(a) 矩形波, inversion (b) Burbop18_10_600, inversion (c) Burbop18_37_11, inversion (d) Burbop18_50_2m, inversion (e) pburbop18_50_2m, inversion (f) 矩形波, refocus (g) Burbop18_10_600, refocus (h) Burbop18_37_11, refocus (i) Burbop18_50_2m, refocus (j) pburbop18_50_2m, refocus 矩形波と比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。
BEBOP (broadband Excitation By Optimized Pulse)
BEBOPはExcitationパルスとして機能するBOPパルスである。Deltaには5つのBEBOPパルスが搭載されているが、bebop90_37_550とbebop90_40_400、pbebop90_50_1mの3つ以外は初期に開発されたものであり、基本的には使う必要がない。それぞれの励起プロファイルをFig. 4に示す。矩形波パルスと比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。




Figure 4 BEBOPパルスの励起プロファイルを示す。
(a) 矩形波 (b) Bebop90_37_550 (c) Bebop90_40_400 (d) Bebop90_50_1m 矩形波パルスと比較して優れた励起プロファイルを示すことが分かる。
時間反転BEBOP
BEBOPはExcitationパルスとしてのみ機能し、同じ90degパルスであるflip-backパルスとしては機能しない。しかし、BEBOPのラジオ波強度を時間反転させることでflip-backパルスとして用いることが可能である時間反転させたパルスはBebop90tの名前で搭載されている。Fig. 5にBEBOP90_37_550をexcitationおよびflip-backとして用いたとき、またその時間反転パルスをexcitationおよびfiip-backとして用いた場合の励起プロファイルを示す。このようにBEBOPはexcitationとしてのみ機能し、時間反転させたBEBOPはflip-backとしてのみ機能する。




Figure 5 BEBOPパルスおよび時間反転BEBOPをexcitationとして用いた場合およびflip-backとして用いた場合の励起プロファイルを示す。
(a) BEBOPをexcitationとして用いた場合 (b) BEBOPをflip-backとして用いた場合 (c) 時間反転BEBOPをexcitationとして用いた場合 (d) 時間反転BEBOPをflip-backとして用いた場合。BEBOPはflip-backとして用いることができず、時間反転BEBOPはexcitationとして用いることができないことを示している。
まとめ
高磁場NMRにおいて、矩形波パルスは励起効率が不十分であり、しばしば広帯域パルスを用いる必要がある。
Optimum Controlによってラジオ波の強度および位相を決定したパルスをBOPパルスと呼ぶ。
BURBOPパルスによって広帯域のrefocusとinversionをすることが可能である。
BEBOPによって広帯域のexcitationをすることが可能である。
BEBOPのラジオ波の強度と位相を時間反転させることでflip-backパルスとして用いることが可能である。
参考文献
Kobzar, K., Ehni, S., Skinner, T. E., Glaser, S. J. & Luy, B. Exploring the limits of broadband 90° and 180° universal rotation pulses. Journal of Magnetic Resonance 225, 142–160 (2012).
Skinner, T. E. et al. New strategies for designing robust universal rotation pulses: application to broadband refocusing at low power. J Magn Reson 216, 78–87 (2012).
Kobzar, K., Luy, B., Khaneja, N. & Glaser, S. J. Pattern pulses: design of arbitrary excitation profiles as a function of pulse amplitude and offset. Journal of Magnetic Resonance 173, 229–235 (2005).
Kobzar, K., Skinner, T. E., Khaneja, N., Glaser, S. J. & Luy, B. Exploring the limits of broadband excitation and inversion pulses. Journal of Magnetic Resonance 170, 236–243 (2004).
Skinner, T. E. et al. Optimal control design of constant amplitude phase-modulated pulses: Application to calibration-free broadband excitation. Journal of Magnetic Resonance 179, 241–249 (2006).