新開発"WDSスペクトラマップ"の紹介と解析例
XM2026-01
概要
元素マッピングとWDSの駆動を交互に連続することで、WDSを用いた高波長分解能スペクトルイメージング機能を新たに開発した。この機能は,複数の分光結晶を同時に測定し、複数のスペクトルを同時に取得しながらイメージングを行う部分から「スペクトラマップ分析」と命名した。このマッピングデータでは各ピクセルに対応するスペクトル情報を保持しており、測定後にピークの有無や重畳、バックグラウンドの影響などを確認・解析することが可能である。これにより、従来の手法では困難であった定性的な判断を、マッピング結果から直接行うことができる。
本報告では、このスペクトラマップ分析のスペクトル構築とデータビューアー、その具体的な分析例について紹介する。
波長分散型分光器 (WDS) を用いたスペクトラマップ構築
WDSは分析結晶とX線検出器から構成される。ローランド円上の集光条件とBraggのX線回折条件 (nλ=2dsinΘ) から式 (1) が導かれる。
この式から、λはLに比例することがわかり、WDSをスキャンするとスペクトルが得られる。また、WDSを固定することで、特定の元素の特性X線 (マップ) を得ることができる。
本機能は波長の異なる複数マップデータからスペクトラマップを作成する。
手順は以下の通り
(a) 各WDSを指定波長λsに対応する位置にセットする。
(b) マッピングの全画素のX線カウントデータを蓄積する。
(c) WDSを次の波長位置に移動する。
(d) 測定波長λnまで (a) ~ (c) を繰り返す。
以上の手順にてスペクトラマップが構築される。
スペクトラマップデータビューアー
測定試料 : 玄武岩
このソフトウェアでは、スペクトラマップデータの表示が可能であり、マップやスペクトルをエクスポートすることで、従来のデータと同様に同じソフトウェア上で解析を行うことが可能。
機能一覧
- マップ上に領域を選択してスペクトルを表示
- スペクトル上にROIを設定してマップを表示 (上記2項目は交互に動作する)
- 電子線像 (SEI/BEI) とX線画像の重ね合わせ
- ネットマップの作成
- 作成データのエクスポート
【分析例①】 ビームスキャンマップの低倍率化とピーク有無解析例
Al合金の断面分析
分析条件
| 分光結晶 | TAP、PETH |
|---|---|
| 加速電圧 | 15 kV |
| 照射電流 | 100 nA |
| 倍率 | 1000倍 |
| 測定時間 | 1 msec |
| 測定点数 | 200×150 |
| 間隔 | 100 µm |
| 時間 | 35分 |
スペクトラマップ分析では、低倍率での分析時に発生する集光範囲によるピークのずれをROI範囲の設定により包含させることで、集光条件から外れた箇所においても、実際の元素分布を取得が可能。
そのため、従来利用していたピークトップ位置でのビームスキャンマッピングよりも低倍率化が実現可能。
※分光器の位置によって最低倍率は異なる。
ピークとバックグラウンドの比較・確認が容易
A1とA2位置のスペクトルを確認することで、Si存在有無の確認が可能。
析出部だけでなく、基材にもSiが存在することが明瞭に確認できる。
【分析例②】 ピーク分離分析例 ステンレス鋼の鋭敏化材
スペクトルとROI範囲
分析条件
| 分光結晶 | PETH |
|---|---|
| 加速電圧 | 15 kV |
| 照射電流 | 100 nA |
| 倍率 | 1000倍 |
| 測定時間 | 1 msec |
| 測定点数 | 200×150 |
| 間隔 | 100 µm |
| 時間 | 60分 |
熱環境によってステンレス鋼の結晶粒界に析出したM23C6介在物として鋼中に存在する硫化物 (MnS)S KαはMo Lαのピーク裾に影響されるため、従来のピークトップでのマッピング分析では、S Kα+Mo Lαの元素分布情報となる。(上図参照)
後解析にてROI範囲の再設定で改善が可能。
【分析例③】ネットマップ分析事例 ネオジム磁石の分析
分析条件
| 分光結晶 | LIFH |
|---|---|
| 加速電圧 | 15 kV |
| 照射電流 | 200 nA |
| 倍率 | 8000倍 |
| 測定時間 | 5 msec |
| 測定点数 | 256×192 |
| 間隔 | 100 µm |
| 時間 | 2.5時間 |
ネオジム磁石
主相 (NdFeB) と副相 (NdやPrが主体の金属相) で構成され、WDSでのマッピング分析では原子番号効果におけるバックグラウンドと特性X線信号の和として強度が得られる。
スペクトラマップ分析ではネットマップ※1機能を用いることで正味特性X線のみの分布を表示することが可能となり、より正確に元素の濃度に比例した強度および元素分布像が得られる。
※1 バックグラウンド除去処理をした積分強度の分布を指す。

【分析例④】エクスポート機能におけるスタンダードレス定量解析
分析条件
| 分光結晶 | 図に記載 |
|---|---|
| 加速電圧 | 15 kV |
| 照射電流 | 100 nA |
| 倍率 | 3000倍 |
| 測定時間 | 1 msec |
| 測定点数 | 256×192 |
| 間隔 | 200 µm |
| 時間 | 10時間 |
玄武岩の断面分析
P1~P5の位置から抽出されたスペクトルをエクスポートし比較。
P1~P5のスタンダードレス定量分析結果を取得可能。
一度の分析で追加の定性分析が不要となり、高いハンドリング性がある。

スペクトラマップのまとめ
- 全波長範囲を測定することで、任意位置のスペクトルを抽出し、定性分析やスタンダードレス定量を実施可能。ハンドリングの向上や初心者の方でも分析設定が簡便。
- 測定後に、ネットマップの作成やピークの重畳を確認し、重畳回避した再出力などの解析作業が可能。
- スペクトラマップ分析では、すべての元素を対象とする場合、約1,000倍まで対応可能。
(分光器の位置によって測定可能な最低倍率が異なる。)
