JMS-T2000GC高質量精度がもたらす解析結果への効果−msFineAnalysis統合解析結果の絞り込み効果− [GC-TOFMS Application]
MSTips No.331
はじめに
このたび日本電子では、2004年に上市したGC/HR-TOFMS、JMS-T100GC "AccuTOF™ GC"から数えて第6世代目となるJMS-T2000GC "AccuTOF™ GC-Alpha"を開発し、発表した。JMS-T2000GCでは前機種と比べて3倍の高質量分解能化(10,000→30,000 @m/z 614)と高質量精度化(3ppm→1ppm、EI標準イオン源)を達成した。
高質量精度化がもたらす解析結果への影響について、アクリル樹脂の熱分解GC-TOFMSデータをmsFineAnalysisで解析した結果を用いて評価したところ、高質量精度化によって分子式候補を一意に決定できる数が従来より増加する効果を確認できた。本MSTipsでは、高質量精度がもたらす解析結果への影響について報告する。
解析フロー
Fig.1にmsFineAnalysisの解析フローを示す。msFineAnalysisでは、GC/EIデータとGC/ソフトイオン化(SI)データを用いて以下に示す5つの定性解析を自動に実行する(統合解析)。
- EIマススペクトルを用いたライブラリーデータベース検索
- SIマススペクトル中の分子イオン自動探索
- 2.で選択された分子イオンの精密質量解析
- 3.で得られた分子式候補の同位体比解析による候補の絞り込み
- 1.及び4.で得られた分子式候補を組成条件とした、EIフラグメントイオンの精密質量解析と分子式候補の絞り込み
msFineAnalysisでは、2つのマススペクトルの精密質量解析を組み合わせることで、ライブラリー登録成分のみならず未登録成分に対しても自動で定性解析が実行される。
Fig.1 msFineAnalysis workflow
実験
測定条件をTable1に示す。試料は市販のアクリル樹脂を用い、EI法では0.2mg、FI法では1.0mgとした。試料前処理装置として熱分解装置を使用し、熱分解生成物分析を実施した。イオン源はEI/FI共用イオン源を用いた。得られたデータをmsFineAnalysisにて解析し、高質量精度データが解析結果にもたらす影響について検証した。
Table 1. Measurement and analysis conditions
Pyrolysis conditions | |
---|---|
Pyrolyzer | EGA/PY-3030D(Frontier Lab) |
Pyrolysis Temperature | 600°C |
GC conditions | |
Gas Chromatograph | 8890A GC (Agilent Technologies) |
Column | ZB-5MSi (Phenomenex) 30m x 0.25mm, 0.25μm |
Oven Temperature | 40°C(2min)-10°C/min -320°C(15min) |
Injection Mode | Split mode (100:1) |
Carrier flow | He:1.0mL/min |
MS conditions | |
Spectrometer | JMS-T2000GC (JEOL Ltd.) |
Ion Source | EI/FI combination ion source |
Ionization | EI+:70eV, 300μA FI+:-10kV, 40mA/30msec |
Mass Range | m/z 35-800 |
Data processing condition | |
Software | msFineAnalysis (JEOL Ltd.) |
Library database | NIST17 |
Tolerance | ±5mDa、±2mDa |
JEOL GC/HR-TOFMS systems: JMS-T2000GC
結果
精密質量解析においては得られたマススペクトルがもつ質量精度を考慮して、ある程度幅の広い許容誤差を設定し解析を実施する。以前の装置モデル(JMS-T200GCなど)では、通常許容誤差を±5mDa程度に設定し解析を行っていた。新機種JMS-T2000GCでは、従来より高い質量精度でマススペクトルの取得が可能となったため、設定する許容誤差を小さくすることが可能である。そこで、アクリル樹脂の熱分解GC測定で観測された相対強度0.05%以上の120成分に対して、許容誤差の値や、組成推定条件がもたらす解析結果への影響を調べた。
Fig.2にmsFineAnalysisによる自動解析結果を示す。Fig.2に示す円グラフは、青色が分子式候補を1つに絞れた成分、黄色が有意な分子式候補が2つ以上ある成分、灰色が有意な分子式候補が得られなかった成分の割合を各々示している。左の円グラフは許容誤差±5mDaにおける解析結果であるが、許容誤差が幅広いため、得られる分子式候補が複数になるケース(黄色)が散見された。結果として、分子式候補を1つに絞れた成分は58%に留まった。中央の円グラフは許容誤差±2mDaにおける解析結果であるが、狭い許容誤差により偽陽性候補を排除することができており、結果として分子式候補を1つに絞れた成分は75%まで上昇した。右の円グラフは、許容誤差±2mDaに加え、解析に使用する元素種類をC/H/Oに限定した結果を示している。今回はアクリル樹脂の熱分解GC測定を実施しており、必ずしも窒素を元素条件に加える必要はないため、元素条件C/H/Oでの解析を実施した。結果として、分子式候補を1つに絞れた成分は84%まで上昇した。
Fig.2 Comparison of automatic analysis results for 120 components
許容誤差±2mDa、元素条件C/H/Oとすることで101成分・84%に対して自動で分子式候補を1つに絞ることができた。残り19成分について検証したところ、以下を理由に自動で候補を絞ることができなかったことが分かった。
- 分子イオンとプロトン付加分子が共存しており、同位体パターンが合わなかった
- プロトン付加分子のみが観測されていた(プロトン付加分子の電子数は偶数のため、条件Oddでは正しい結果が得られない)
- 分子イオンの相対強度がイオンピーク検出のデフォルト閾値10%より低く、正しくアサインされていなかった
- 分子イオンの絶対強度が低くピーク形状不良故に、質量誤差が2mDaを超えていた
- 完全共溶出成分と考えられ、EIフラグメントイオンカバー率が低かった
上記については測定データ、解析結果を検証することで、マニュアル作業により1つの分子式候補に絞る事ができた(Fig.3)。
Fig.3 Cofirmation by analyst for 19 components
JMS-T2000GCは高い質量精度を有しており、従来に比べて狭い許容誤差をもって解析することができる。それにより、観測成分の大多数に対して分子式候補を自動で1つに絞る事が可能であった。自動で候補を絞り切れなかった成分に対しては、マススペクトルや解析結果を検証することで、候補を1つに絞ることが可能であった。
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