TG/MS法によるシュウ酸カルシウムの分析
MSTips No.246
概要
熱重量分析(Thermogravimetry:TG)は加熱による測定試料の重量変化を測定する手法である。TG/MS法ではTGにおける発生ガスを質量分析計(MS)に導入し、その定性解析を行う。今回はNETZSCH社製 熱重量/示差熱同時分析装置 STA 2500 Regulusと日本電子製 四重極型質量分析計JMS-Q1500GCを用い、シュウ酸カルシウムの分析を行ったので紹介する。
装置とソフトウェアの構成

TGの発生ガスはトランスファーラインを通り、GCに導入される。GCカラムにはキャピラリーブランチューブを用い、高温に保持することでガス成分を素通りさせ、MSに導入する。TGの昇温開始とMSの測定開始は同期しており、それぞれの測定データは横軸(時間)が共通となる。TGとMSはそれぞれ別のPCソフトウェアで測定動作を制御するが、解析ソフトウェア間はデータのやり取りが可能で、TGの重量変化とMSによる発生ガスの定性解析を関連付けることが可能となっている。

Figure1. Device and PC software connections
実験
測定試料にはシュウ酸カルシウム水和物を使用し、電子天秤にて5mg、20mgを秤量した。再現性確認のため試料量5mgでの測定は5回行った。TG及び、MS装置の測定条件をTable1に示す。
TG | |
---|---|
Fumace temp. | 60°C → 20°C/min → 1000°C |
Transfer line temp. | 300°C |
Atmosphere gas flow | He, 100 mL/min |
Split ratio | 100:1 |
GC | |
Oven temp. | 300°C |
Column | Capillary blank tube(metal) 5m x 0.25mm i.d. |
MS | |
Ion source temp. | 250°C |
Interface temp. | 300°C |
Ionization mode | EI, 70eV |
Ionization current | 50μA |
Relative EM voltage | +200V |
Measurement mode | Scan |
Scan range | m/z 10~100 |
結果
シュウ酸カルシウム20mgの測定結果をFigure2に示す。緑色はTG曲線(=重量変化)、青色はDTA曲線(=発熱反応)、赤色はTICクロマトグラムを表す。TG/DTA曲線からは190°C、500°C、780°C付近で吸熱反応による重量減少が確認され、さらにTICクロマトグラムからは各重量減少と相関のある発生ガス由来のピークが検出された。

Figure2. TG / DTA curves and TIC chromatogram of Calcium oxalate
Figure2のTICクロマトグラム上のピーク[1]~[3]について、マススペクトルをFigure3に示す。マススペクトルより[1]はH2O、[2]はCOとCO2、[3]はCO2であることが確認できた。

Figure3. Mass spectra of TICC peak
シュウ酸カルシウム水和物の熱分解反応は以下の通りであり、上記の測定結果はこれに合致することが確認できた。
- [1] CaC2O4H2O → CaC2O4 + H2O
- [2] CaC2O4 → CaCO3 + CO , CO + ½ O2 → CO2 ※測定流路内に存在する酸素によるもの
- [3] CaCO3 → CaO + CO2
再現性の確認
シュウ酸カルシウム5mg(n=5)測定における抽出イオンクロマトグラムのピーク面積値(単位重量あたり)、およびその相対標準偏差をTable2に示す。相対標準偏差3%程度と良好な再現性が確認できた。
抽出イオンクロマトグラムのピーク面積値 | |||
---|---|---|---|
[1]H2O (m/z 18) |
[2]CO (m/z 28) |
[3]CO2 (m/z 44) | |
1 | 72522896 | 140532864 | 384935646 |
2 | 74839998 | 144486163 | 393943250 |
3 | 73120172 | 142488903 | 385202014 |
4 | 73118409 | 141937036 | 385451041 |
5 | 69352941 | 135562682 | 367173088 |
相対標準偏差 |
2.8% |
2.4% |
2.6% |
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