msFineAnalysis Ver3における差異分析機能の紹介②
MSTips No.328: ヘッドスペース-GC-TOFMSによるコーヒー豆の香気成分分析
はじめに
近年の質量分析装置の高性能化に後押しされ、微量成分をターゲットとした差異分析の需要が高まっている。これを受けGC-TOFMSの解析ソフトウェアとして定評のあるmsFineAnalysisに、新機能として差異分析機能を搭載したのでMSTips327~329にわたり紹介する。本報ではヘッドスペース(HS)-GC-TOFMSによるコーヒー豆の香気成分の分析例を用いて、微量分析におけるmsFineAnalysisの有効性を解説するとともに、コーヒー豆の産地の特徴に合致する分析結果が得られたので紹介する。
分析内容
測定に使用するサンプルは市販のコーヒー豆2種(A:グアテマラ産、B:ブラジル産)を用い、以下の手順で調製を行った。
- 22mL容量のHSバイアルにコーヒー豆1gを入れ、100°Cに沸騰させたお湯を15mL注いで密封
- 上記バイアルを室温まで冷却後、上澄み液10mLを採取し、内部標準物質(p-Bromofluorobenzene)2μLを添加
- 上記を2mLずつ、5本のHSバイアルに分取して密封
統計解析を行うためGC/EI測定はn=5で実施し、差異判定の条件はp値(小さいほど統計的再現性高となる指標)≦5%、ホールドチェンジ(サンプル間強度比)≧1.5としてmsFineAnalysisによる差異分析を行った。測定条件の詳細を表1に示す。
Table 1. Measurement and analysis conditions
HS-GC-MS | |
---|---|
Headspace sampler | MS62070STRAP (JEOL) |
Mode | Trap |
Sample heating | 60°C, 15min |
Gas Chromatograph | 7890A GC (Agilent Technologies, Inc.) |
Mode | Split mode (30:1) |
Column | ZB-WAX (Phenomenex Inc) 30m x 0.18mm, 0.18μm |
Oven Temperature | 40°C(3min)-30°C/min -250°C(10min) |
Carrier flow | He, 1.0mL/min |
TOFMS | JMS-T200GC(JEOL) |
Ionization | EI+:70eV, 300μA FI+:-10kV, 48A Carbotec-5μm (CarboTech) |
Mass Range | m/z 35-600 |
msFineAnalysis | (JEOL) |
Mode | Variance component analysis |
Number of data | n=5 |
p-value | ≦5% |
Fold change | ≧1.5 |
結果
msFineAnalysisの解析結果のスクリーンショットをFigure1に示す。ピークリストには差異ピークのみを抽出して表示しており、サンプル間の差異に注目して確認することが可能となっている。全体で141ピークが検出され、差異ピークの内訳としてはサンプルAグアテマラ産に特徴的なものが6ピーク(ピークID[006]フルフラール、[007]酢酸ほか)、サンプルBブラジル産に特徴的なものが3ピーク([001]メチルフランほか) 、サンプルABで差異がないものが52ピーク、統計的再現性がないと判断されたものが88ピークであった。
サンプルAグアテマラ産からはヘキサナール(青臭さ)、酢酸メチル(フルーツ様香)、酢酸、リナロール(柑橘/フローラル香)強く検出されており、グアテマラ産コーヒー豆の特徴であるフレッシュ、爽やかさに合致する結果が得られた。Bブラジル産からはメチルフラン(チョコレート様香)、ジメチルジスルフィド(ニンニク様香)が検出されており、ブラジル産コーヒー豆の特徴であるコクに合致する結果が得られた。

Figure 1. Screenshot of msFineAnalysis
msFineAnalysisのアライメント(同一性判定)のスクリーンショットをFigure2に示す。リナロールは最大ピークに対する強度比が0.68%の微小ピークであり、手動解析であれば見逃してしまう可能性が高い。msFineAnalysisはデコンボリューションを介することでTICC上では埋もれてしまうような微小ピークまで検出することが可能である。また統計解析により再現性のないピークを除外することで信頼性の高い定性分析結果を得ることが可能である。
サンプルAグアテマラ産

サンプルBブラジル産

Figure 2. Screenshot of alignment window
まとめ
msFineAnalysisの差異分析機能により、コーヒー豆の香気成分分析において産地の特徴に合致する結果を容易に得ることができた。msFineAnalysisではデコンボリューションや統計解析による高度な解析が可能であり、香気成分のような微量成分をターゲットとする差異分析では特に有効である。
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