msFineAnalysis Ver3における差異分析機能の紹介③
MSTips No.329: 熱分解-GC-TOFMSによる酢酸ビニル樹脂分析
はじめに
近年の質量分析装置の高性能化に後押しされ、微量成分をターゲットとした差異分析の需要が高まっている。これを受けGC-TOFMSの解析ソフトウェアとして定評のあるmsFineAnalysisに、新機能として差異分析機能を搭載したのでMSTips328~329にわたり紹介する。本報では熱分解-GC-TOFMSによる酢酸ビニル樹脂の分析例を用いて、msFineAnalysisの差異分析におけるEI/SI(ソフトイオン化)統合解析の有効性について解説する。
分析内容
測定に使用するサンプルは市販の酢酸ビニル樹脂(接着剤)2種(A、B)を用いた。統計解析を行うためGC/EI測定はn=5で実施し、差異判定の条件はp値(小さいほど統計的再現性高となる指標)≦5%、ホールドチェンジ(サンプル間強度比)≧1.5としてmsFineAnalysisによる差異分析を行った。測定条件の詳細を表1に示す。
Table 1. Measurement and analysis conditions
Py-GC-MS | |
---|---|
Pyrolyzer | EGA/PY-3030D (Frontier Laboratories Ltd) |
Mode | Single shot |
Furnace | 600°C |
Gas Chromatograph | 7890A GC (Agilent Technologies, Inc.) |
Mode | Split mode (100:1) |
Column | DB-5msUI (Agilent Technologies, Inc.) 15m x 0.25mm, 0.25μm |
Oven Temperature | 50°C(1min)-30°C/min -330°C(1.7min) |
Carrier flow | He: 1.0mL/min |
TOFMS | JMS-T200GC(JEOL) |
Ionization | EI+:70eV, 300μA FI+:-10kV, 6A Carbotec-5μm (CarboTech) |
Mass Range | m/z 35-600 |
msFineAnalysis | (JEOL) |
Mode | Variance component analysis |
Number of data | n=5 |
p-value | ≦5% |
Fold change | ≧1.5 |
結果
msFineAnalysisの解析結果のスクリーンショットをFigure1に示す。ピークリストには差異ピークのみを抽出して表示しており、サンプル間の差異に注目して確認することが可能となっている。全体で125ピークが検出され、差異ピークの内訳としてはサンプルAに特徴的なものが10ピーク(ピークID[024]ジエチレングリコールジベンゾアート(Figure1では別名で表示)ほか)、サンプルBに特徴的なものが15ピーク([016]2,2,4- トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートほか)、サンプルABで強度差がないものが42ピーク、統計的再現性がないと判断されたものが58ピークであった。
クロマトグラム前半の主要ピークは酢酸等の熱分解生成物であり、サンプルABで強度差がない。一方クロマトグラム後半の主要ピークは添加剤成分であり、サンプルAB間で強度差が見られた。また熱分解分析で検出されるオリゴマーや添加剤等はライブラリーデータベース未登録であることが多いが、msFineAnalysisではこれらのピークに対してもEI/SI統合解析により推定分子式が導出できた。

Figure 1. Screenshot of msFineAnalysis
ピークID[015]の個別化合物解析結果のスクリーンショットをFigure2に示す。ライブラリーサーチの第一候補(類似度857)は2,2,4- トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(C16H30O4:分子量286)であるが、FIマススペクトルからはm/z217がベースピークとして検出されており、第二候補(類似度755)の2,2,4- トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(C12H24O3:分子量216)のプロトン付加分子[M+H]+と推定されるため、統合解析結果として後者が選択されている。このようにmsFineAnalysisではEI/SI統合解析により信頼性の高い定性分析結果を得ることが可能である。

Figure 2. Screenshot of compound window
まとめ
msFineAnalysisの差異分析機能により、酢酸ビニル2サンプル間の差異情報を容易に得ることができた。msFineAnalysisではEI/SI統合解析により信頼性の高い定性分析結果を得ることが可能であり、ライブラリーデータベース未登録の物質が多く検出される熱分解分析では特に有効である。
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