msFineAnalysis iQを用いた脂肪酸メチルエステルの統合解析
MSTips No. 358
はじめに
ガスクロマトグラフ質量分析法で使用される電子イオン化 (Electron Ionization, EI) 法は、フラグメントイオンを生成しやすいハードイオン化法の一つであり、取得したマススペクトルとライブラリー登録されたマススペクトルを比較することで化合物の同定を行うことできる。それに対し、光イオン化 (Photoionization, PI) 法などのソフトなイオン化法では、フラグメントイオンの生成が最小限に抑えられ、分子イオンの情報が得やすい。ソフトイオン化法から得た分子イオン情報と、従来のライブラリサーチの結果を統合することで、EI法のライブラリーサーチのみを用いた場合よりも同定確度を向上させることができる。我々はこの手法を統合解析と称し、GC-MSにおける確度の高い定性分析方法として提案している。
脂肪酸メチルエステル (FAMEs) は、食品中の脂質量を知るための重要な成分であり、また環境負荷が少ない性質からバイオディーゼル燃料としての用途も増えている。FAMEsにはアルキル鎖に二重結合を有する不飽和FAMEsが数多く存在しているが、二重結合数が増える (不飽和度が増す) とEI法では分子イオンを検出し難くなる傾向がある。そこで今回、FAMEs標準試料をEI法、PI法にて測定し、分子イオン検出の確認を行った。得られたデータをmsFineAnalysis iQにて解析を行い、ライブラリデータベース検索と、分子イオン確認を組み合わせた統合解析を実施したので結果を報告する。
結果
測定試料は市販のFAME37成分混合標準液 (Restek社製、2-6wt/wt%、P/N: 35077) を用いた。測定条件をTable1に示す。
Fig. 1にGC/EI及びGC/PIのTICCを示す。中極性カラムDB-23を用いることで今回測定したFAME全37成分を分離して検出することができた。
PIマススペクトルを確認したところ、アルキル基の二重結合数が3つまでのFAMEでは分子イオンが顕著に観測されたが、それ以上の二重結合数を持つFAMEでは二重結合数が増えるにしたがいその相対強度は小さくなっていった。相対強度の小さい分子イオンの場合、イオンとノイズの判別が難しくなるが、そのような場合でも、統合解析ではライブラリー検索結果を基に分子イオンを探索することが可能であった。例として次頁Fig. 2にエステル結合を除く部分の炭素数が20で二重結合数0~5の計6成分のマススペクトルと、該当する構造式を示す。
Table 1 Measurement condition
[GC condition] | |
GC system: | 8890 (Agilent Technologies) |
---|---|
Column | DB-23 (Agilent Technologies), 30 m x 0.25 mm, 0.15µm |
Oven temp.: | 50°C (1min) →25°C / min→175°C→4°C / min→230°C |
Inj. mode: | Split mode (100:1) |
Inj. volume: | GC/EI: 0.5 µL, GC/PI: 1.0 mL |
[QMS condition] | |
MS system: | JMS-Q1600GC (JEOL Ltd.) |
Ion source: | EI/PI combination ion source |
Ionization: | EI+, 70 eV, 50 µA PI+, 10.8 eV (115-400 nm, D2 lamp) |
Mass range: | m/z 29-400 (SCAN mode) |

Fig. 1 GC/EI and GC/PI total ion current chromatograms for the FAME 37 mix sample.
Table 2 Integrated qualitative analysis result using the msFineAnalysis iQ







Fig. 2 EI and PI mass spectra for C20 FAMEs.
msFineAnalysis iQを用いた統合解析結果をTable2に示す。ライブラリデータベース検索結果に分子イオン確認結果を組み合わせた統合解析により、解析結果の質を向上することができた。
FAMEのようにEI法で分子イオンが得られにくい化合物の定性分析において、ソフトイオン化法PI法と、msFinaAnalysis iQによる統合解析が有効であることが示された。
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