JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus2.0" を用いた低分子の MS/MS 構造解析 ー レセルピン光分解物のMS/MS測定 ー
MSTips No. 365
高質量分解能 MALDI-TOFMS から得られる精密質量から目的化合物の元素組成を推定することができる。一方、精密質量からは得られない化学構造情報は、MS/MS 測定と組合わせることで推定することが可能である。TOF-TOF オプションを備えた JMS-S3000 "SpiralTOF™-plus 2.0" は、高エネルギー衝突誘起解離 (HE-CID) による構造解析が可能である。HE-CID は、1回衝突でプリカーサーイオンを開裂させる手法であり、複数回衝突で開裂させる低エネルギー衝突解離よりも、構造情報を豊富に得られることで知られている。一方、MALDI-TOFMS は液体クロマトグラフとのオンラインで接続が難しく、目的成分の分離は m/z のみで行う。そのため近しい m/z のピークが同一マススペクトル上に共存する場合、各成分の正確な構造情報を取得するには高いプリカーサーイオン選択性が必要となる。TOF-TOF オプションを備えた SpiralTOF™-plus 2.0 の場合、第1 TOFMS が長いイオン軌道をもつ Spiral イオン光学系を有しているため、高いプリカーサーイオン選択性が実現できる。本アプリケーションノートでは、 SpiralTOF™-plus 2.0 を用いた MS/MS 測定による m/z が近接した目的成分の構造解析の例として、光分解レセルピンの化学構造を推定した結果を報告する。
測定フローと測定条件
サンプルとして用いたレセルピンは、室内で自然光を数日間照射して光劣化させた。測定に使用したマトリックスなどの測定条件は Table 1に示す。ターゲットプレートにスポットしたサンプルとマトリックスの混合液は、自然乾燥させた。MS 測定と MS/MS 測定は同一スポットで行った。
Table 1. Sample preparation and measurement conditions
Sample | Reserpine, 1mg/THF solution |
---|---|
Degradation method | Daylight (A few days, Indoor) |
Matrix | DHB, 10mg/mL THF solution |
Spotting method | Sample + Matrix 1:10 mixed solution was make a spot at target plate |
Mass spectrometer | JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 2.0 |
Measurement mode | Exact mass measurement: Spiral mode MS/MS measurement: TOF-TOF mode |
Mass calibrant | PPG 700, 10mg/mL THF solution |
測定結果
Figure 1 にスパイラルモードでの測定結果を示す。m/z 609 と 2u 離れた m/z 607 にレセルピンとその光分解生成物が検出された。m/z 607 および m/z 609 それぞれに MS/MS 測定を行い、figure 2a および figure 3a に示すプロダクトイオンマススペクトルを得た。両方のプロダクトイオンマススペクトルから Na+ や K+ などの付加イオンは由来のピークは検出されなかったため、プリカーサーイオンは [M +H]+ と推測された。付加イオンを [M+H]+ に限定することで組成推定を実施した結果、m/z 607, 609 のはそれぞれ figure 2b および figure 3b に示すように、レセルピンおよび脱水素レセルピンの元素組成とよく一致した。 さらに、プロダクトイオンマススペクトルの主なピークから、分解されたレセルピンの二重結合位置は複素環部分にあると推測された。(figure 2c および figure 3c)

Figure 1 Mass spectrum of reserpine and its photo-degraded compound (Spiral mode)



Figure 2 Product ion mass spectrum of reserpine (a). Composition estimation results of reserpine (b) and estimated fragment channels(c).



Figure 3. Product ion mass spectrum of photo-degraded compound from reserpine (a). Composition estimation results of photo-degraded compound from reserpine (b) and estimated fragment channels(c).
まとめ
プリカーサーイオン選択性が高い TOF-TOF オプションを備えた SpiralTOF™-plus 2.0を 使用することにより、2u の質量差をもつレセルピンおよびその光分解化合物のプロダクトイオンマススペクトルを個々に得ることができた。プロダクトイオンマススペクトルから付加イオン種を特定できるため、組成推定条件にフィードバックし、組成候補のより絞り込みに活用できる。また得られたプロダクトイオンマススペクトルは 2つで大きく異なり、特徴的なプロダクトイオンマススペクトルから化学構造を推定することができた。
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