新型収差補正装置を用いた傾斜試料の軸合わせ
および高分解能STEM像取得方法
EM2025-05
要約
CEOS社製の新型三段六極子型収差補正装置LASCORでは、従来のASCORで制限要因となっていた六次スリーローブ収差の補正が可能となる。この技術革新により、LASCORを搭載したNEOARMのロンキグラムのフラット領域は収束半角80mrad程度まで拡大した。本研究では、この広がったフラット領域を活用し、電磁的な操作で晶帯軸を精密に合わせることで高分解能STEM像を取得する新しい手法を提案する。この手法の最大の特徴は、ステージ操作に依存しない点である。そのため、バックラッシュやドリフトといった機械的な問題を回避でき、高分解能STEM像の取得が効率的に自動化できる。この技術は特に半導体分野への応用が期待される。具体的な手順としては、まず光軸から外れた晶帯軸に対し、CL絞り直下に配置されたLASCOR内の偏向系を利用してビームを垂直に入射させる。その後、結像系最下段にある偏向系でビームを検出器の中心に戻しSTEM像を取得する。広いフラット領域のおかげで、ビームに60mrad程度の傾斜があっても幾何収差の影響はほぼ受けない。ただし、色収差とビーム傾斜が像質に影響し、ビームの傾斜方向に対する像のボケが確認された。
背景
高分解能STEM像を取得する際には、試料の晶帯軸を正確に合わせる必要がある。晶帯軸合わせはホルダーとゴニオメーターによる機械的な2軸傾斜機構を用いるが、駆動時に発生するバックラッシュやドリフトが問題となる。これらの機械的な問題はSTEM像取得の自動化を困難としており、機械的な操作に依存しない晶帯軸合わせ方法の確立が求められている。一方、STEM収差補正技術は大きく進展しており、CEOS社によって三段六極子型のSTEM収差補正器LASCORが開発された。LASCORでは、現行型のASCORで補正が困難な高次収差の六次スリーローブ収差を補正することができる。このためLASCORを搭載したNEOARMではロンキグラムフラット領域が80mradにまで拡大された。本発表ではこの広がったフラット領域を利用した電磁的な晶帯軸合わせ方法を報告する。

電磁的な晶帯軸合わせ方法
電磁的な晶帯軸合わせは、LASCOR上方に位置するBeam tilt coilsと結像系の最下段に位置するPLAの二つの偏向系を利用する。Beam tilt coilsでは二段偏向によりビームを純粋に傾斜させることができ、試料面上でビームは傾斜した状態になる。PLAではBeam tilt coilsによる傾斜で検出器中心から外れたビームを中心に振り戻す。ビームを傾斜させるとロンキグラム上ではCLアパチャーの影がシフトする。このシフトがフラットエリア内に収まっていれば大きな幾何収差が導入されることなくSTEM像を取得することができる。収束半角26mrad(φ40μm)のCLアパチャーを用いる場合、80mradに広がったロンキグラム上では54mrad(3.1°)までビーム傾斜させて高分解能のSTEM像が取得できる。


結果
実験はNEOARM(JEM-ARM200F)にLASCORを搭載して行った。左図に実験の際に取得したロンキグラムを示す。破線は電磁的な晶帯軸合わせを行った際のCLアパチャー位置を示しており、本実験では4つの異なる角度(0、13、32、65 mrad)に対して晶帯軸が補正できるようにSi(110)の傾き調整しそれぞれのSTEM像を取得した。右図に観察結果を示す。晶帯軸が65mradずれた状態であってもSi(110)の原子分解能が像を取得することができたが、傾斜の大きさに依存して傾斜方向へのボケが大きくなっていた。

考察
傾斜方向へのSTEM像のボケは、色収差とビーム傾斜が原因であると考察した。色収差は電子のエネルギーのばらつきにより生じ、わずかなフォーカス変化として現れる。今回の晶帯軸調整法では試料面上でビームを傾斜させているため、傾斜方向に対しては右図のような状態になっている。この図からも分かる通り、フォーカスを変化させた場合には試料への照射位置とフォーカスが変化している。この変化が傾斜方向に対するボケとして現れたと考察した。左図では色収差のみを1.2mm導入し、ビーム傾斜状態を再現したシミュレーションの結果を示した。このシミュレーション像からは実験で観察したものと同様のボケが確認できた。これらの結果から、電磁的な晶帯軸合わせによるSTEM像取得では色収差とビーム傾斜が像質に影響を与えることが示された。

結論
電磁的な操作のみで晶帯軸合わせをおこないSTEM像取得する方法を考案した。65mrad傾斜したビームでSTEM像取得した場合でも原子分解能像を取得できることを確認した。一方で、ビームを傾斜させていくとその大きさと向きによってSTEM像のボケが確認された。これはマルチスライス法を用いたシミュレーションから色収差とビーム傾斜の影響であることが分かった。このことから、モノクロメーターなどにより色収差が小さくなれば電磁的な晶帯軸合わせの技術はより強力なツールになると考えている。
Reference:
H Müller et al., Microscopy and Microanalysis, 12 (2006) p. 442.
S Uhlemann et al., Microscopy and Microanalysis, 28 (2022) p. 2630.
