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粒子解析/詳細分類を用いた粒子の自動分類
~アスベストの自動分類例~

MP2025-01

はじめに

アスベスト(石綿)は、かつて建材として広く使用されていたが、その有害性が明らかとなった現在では、厳格な管理が求められている。
アスベストを含有する建造物の解体作業においては、空気中にアスベスト繊維を含む粉塵が発生することがあり、これを吸入すると、肺内に長期間残留し、中皮腫、肺がん、石綿肺などの重篤な疾患を引き起こす可能性がある。
そのため、解体作業に際しては、アスベストの漏洩の有無を確認するための大気分析が必要であり、その分析には走査型電子顕微鏡(SEM)の使用が不可欠である。

最近、SEMによる大気分析において、多数の粒子 (繊維) を分析/分類する効率的な手法として、粒子解析による自動分析が注目されている。しかし、大気中には様々な粒子が混在するため、分析結果からアスベストの自動分類をすることは難しい。そこで、自動分類精度向上を目的とし、ケミカルタイプの設定値を検討した。

粒子解析ソフトウェア (PA3) を用いた自動分析/自動分類

日本電子製粒子解析ソフトウェア (PA3) を用いると、繊維状物質を自動抽出し、アスベストの自動分類を行うことができる。
決められた範囲 (1000倍、300視野) を自動撮影しつつ、画像の中の粒子 (繊維) を長さ/幅/アスペクト比等の設定値を元に自動抽出し、元素分析を行う (図1)。
自動分類には、粒子 (繊維) の特徴的な形状や元素の質量%を指定しておくことで分類を行うケミカルタイプの簡易分類/詳細分類と、スペクトルマッチングにより分類を行うQBaseがある。様々な粒子が混在する大気中試料は、スペクトル形状が複雑でQBaseによる分類が難しく、一般的にはケミカルタイプ簡易分類が使用される。

PA3による自動分析は、測定結果の精度でオペレーターによる手作業に劣るが、測定中の手作業が少ないため、大気分析におけるスクリーニング分析として活用されている。

図1

(図1) PA3を用いた自動分析

粒子解析とケミカルタイプ簡易分類

【実験】

図2

(図2) 粒子抽出結果

2種類のアスベスト (クリソタイル/Chr:Mg3Si2O5(OH)4アンソフィライト/Ant:Mg7Si8O22(OH)2)を混合した模擬試料を準備し、長さ、アスペクト比等を元に繊維を抽出した (図2)。
ケミカルタイプで元素の質量%を表1の通りに指定し、PA3を用いて自動分類を試みた。設定値は、標準試料の定量値に基づき理想的な試料を想定した設定値1と、様々な粒子が混在する大気中試料で数え落としを防ぐための実試料を想定した設定値2の二通りで検討した。なお、定量分析は、バックグラウンド (カーボンテープ等) の影響を減らすため、C、Oを定量除外元素に設定して行った。

【結果と考察】

理想的な試料を想定した設定値1を使用した結果ではAntChrの分類が可能だった。しかし実試料を想定した設定値2では、全てのアスベストをアスベストとして判定することは可能だが、Antが全てChrと判定された。類似した組成の粒子 (繊維) が存在する場合、分類条件の優先度が高い分類結果 (今回の場合Chr) の影響を受けるというケミカルタイプの欠点が現れてしまった。
理想的な設定値では良い結果が得られるが、実試料では砂粒等が近接するアスベスト繊維の数え落としが発生する可能性が高い。したがって、実際の測定では余裕を設けた設定値2で、より正確な分類結果が求められる。

(表1) ケミカルタイプ簡易分類 設定値

設定値1 設定値2
Chr Mg:35%以上
Si:45%以上
Fe:2%以上
Mg:25%以上
Si:35%以上
Fe:1%以上
Ant Mg:30%以上
Si:50%以上
Fe:5%以上
Mg:20%以上
Si:30%以上
Fe:2%以上

(表2) ケミカルタイプ簡易分類 結果

手動分類結果 設定値1
(正答率100%)
設定値2
(正答率45.5%)
Chr 12本 12本 22本
Ant 10本 10本 0本

ケミカルタイプ詳細分類の設定とアスベストの自動分類

【実験】

ケミカルタイプ簡易分類で用いた実試料を想定した設定値2に、元素の質量%の比を加えて詳細分類を行った (表3)。クリソタイルはMgとSiの比が質量%でおおよそ1:1であるが、実際の測定結果は周囲の砂粒等の影響からその比には幅ができる。そこで、Mg/Siを0.6以上、1.0未満と範囲を定めた。アンソフィライトはMgとSiの比が質量%でおおよそ1:2であるため、Mg/Siの範囲を0.2以上、0.6未満と設定した。

【結果と考察】

実試料を想定した設定値2であってもChrとAntを混同することなく分類することができた (表4)。設定に追加した元素の質量%の比は、組成が類似する粒子をより正確に分類するのに効果的であった。詳細設定により、PA3を用いたアスベストの自動分類の精度向上が期待できる。

(表3) ケミカルタイプ詳細分類 設定値

Chr Mg:25%以上
Si:35%以上
Fe:1%以上
Mg/Si≧0.6
Mg/Si<1.0
Ant Mg:20%以上
Si:30%以上
Fe:2%以上
Mg/Si≧0.2
Mg/Si<0.6

(表4) ケミカルタイプ詳細分類 結果

手動分類結果 詳細分類結果
(正答率100%)
Chr 12本 12本
Ant 10本 10本

まとめ

粒子解析ソフトウェアは、300枚の画像から繊維の抽出、元素分析を自動で行うことができる便利な機能である。また、ケミカルタイプ詳細分類を用いると数え落とすリスクを減らしながらアスベストの分類の精度を向上できる。最終的に人の目による確認は必要であるが、これから増加する大気分析業務において、自動分析ができる粒子解析がオペレーターの負担を軽くすることは間違いない。

今回は大気中アスベストの自動分類を目的にケミカルタイプの検討を行った。大気分析では様々な粒子が混在するが、粒子 (繊維) が比較的分散して存在するので粒子解析や分類を行いやすく、良い結果を得ることができた。
今後は試料作製法や混在物に大きく影響される建材アスベストや、車両部品の清浄度検査、工場ラインの異物分析への応用も検討したい。

 

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