窒素キャリアガスを使用したGC-MS法によるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ジクロロアセトニトリルおよび抱水クロラールの分析
MSTips No. 398
MSTips No. 398
1. はじめに

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
GCのキャリアガスとして広く使われているヘリウム(He)は、様々な事情により、一時的な価格の上昇やその供給状態の不安定化等の問題を抱えることがあり、供給の遅滞等が発生した場合には代替ガスとして別種のキャリアガスの使用検討が必要になる。代替ガスとして主に水素と窒素が検討されており、安全性を重視した場合、窒素ガスの方がGC-MSへの導入が比較的容易である。今回、水道水質検査における水質管理目標設定項目のフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ジクロロアセトニトリル、抱水クロラールを窒素キャリアガスでMSTips No.325と同様に同一カラムで測定した。結果、検量線の直線性と定量下限における再現性について全ての化合物で良好な結果が得られたので本報において紹介する。
1.1測定条件
測定はガスクロマトグラフ四重極質量分析計「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」を用いた。測定条件をTable 1に示す。前述の通り、使用するカラムは同一で、GC条件を変更することで各化合物の測定に対応した。尚、MSのSIM取り込みにおける各分析対象成分のモニターイオンは、「水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について(→以後、通知法) 」記載の値を使用した。
Table 1. Measurement Condition of Each Compound
Parameter | value | ||
---|---|---|---|
Di(2-ethylhexyl)phthalate | Dichloroacetonitrile & Chloralhydrate | ||
GC | Oven temp. | 50℃(2min)→20℃/min→180℃(0min)→5℃/min →260℃(10.5min)→10℃/min →280℃(5min), Total 42min |
35℃(3.5min)→15℃/min→100℃(0min) →20℃/min→250℃(3min), Total 18.3min |
Column flow (Nitrogen) | 1mL/min | 1mL/min | |
Injection mode | Splitless, Purge time 1min | Splitless, Purge time 0.5min | |
Injection volume | 2uL | 1uL | |
Column | GL Sciences Inc. InertCap 1MS, 30m x 0.25mm id, 1μm film thickness | ||
Inlet temp. | 250℃ | ||
MS | Interface temp. | 250℃ | |
Ion source temp. | 250℃ | ||
Ionization | EI(20eV, 50μA) | ||
Acquisition mode | SIM |
2. フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
2.1.測定方法
処理前の検水中フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの濃度として5, 10, 15, 20μg/Lとなるよう、n-ヘキサンで段階的に希釈して調製した。内部標準物質としてフェナントレン-D10を測定試料に250μg/Lの濃度となるように添加した。
2.2.測定結果
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの検量線をFigure 1に示した。相対検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であった。5μg/Lの試料をn=5で連続測定した際のSIMクロマトグラムと定量値の変動係数の値をFigure 2とTable 2にそれぞれ示した。目標値80μg/Lの1/10以下である5μg/Lにおける定量値の変動係数は5%以内と良好な結果が得られた。

Figure 1. Calibration curve of Di(2-ethylhexyl)phthalate

Figure 2. SIM chromatogram of Di(2-ethylhexyl)phthalate at 5μg/L
Table 2. Coefficient variation (C.V.) of Di(2–ethylhexyl)phthalate at 5μg/L
Quantitation value(μg/L) | C.V. % | ||||
---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | |
5.16 | 5.19 | 5.19 | 5.18 | 5.18 | 0.2 |
3. ジクロロアセトニトリルおよび抱水クロラール
3.1.測定方法
処理前の検水中ジクロロアセトニトリルおよび抱水クロラールの濃度として1, 3, 5, 15μg/Lとなるよう、MTBEで段階的に希釈して調製した。内部標準物質として1,2,3-トリクロロプロパンを測定試料に125μg/Lの濃度となるように添加した。
3.2.測定結果
ジクロロアセトニトリルおよび抱水クロラールの検量線をFigure 3に示した。相対検量線の直線性については、相関係数が0.999以上であった。1μg/Lの試料をn=5で連続測定した際のSIMクロマトグラムと定量値の変動係数の値をFigure 4とTable 3にそれぞれ示した。目標値(ジクロロアセトニトリル:10μg/L、抱水クロラール:20μg/L)の1/10以下である1μg/Lにおける定量値の変動係数は5%以内と良好な結果が得られた。

Figure 3. Calibration curve of dichloroacetonitrile & chloralhydrate

Figure 4. SIM chromatograms of dichloroacetonitrile & chloralhydrate at 1μg/L
Table 3. Coefficient variation of dichloroacetonitrile & chloralhydrate at 1μg/L
Compound name | Quantitation value(μg/L) | C.V. % | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
#1 | #2 | #3 | #4 | #5 | ||
Dichloroacetonitrile | 0.93 | 0.92 | 0.95 | 0.93 | 0.91 | 1.9 |
Chloralhydrate | 0.99 | 1.03 | 1.01 | 1.00 | 1.00 | 1.7 |
4. まとめ
フタル酸ジ(2-エチルへキシル)、ジクロロアセトニトリルおよび抱水クロラールについて、窒素キャリアガスにおける同一カラムでの測定を検討した。検量線の直線性と目標値の1/10以下の濃度における再現性の結果は良好であり、窒素キャリアガスにおける同一カラムによる測定は十分に可能であることを確認した。