Close Btn

Select Your Regional site

Close

JMS-S3000 “SpiralTOF™-plus2.0”および”msRepeatFinder”を用いた紫外線照射により劣化したポリエチレンテレフタレートの差異解析 [MALDI Application]

MSTips No.422

はじめに

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)は、ポリマーの分析において強力なツールである。MALDIはおもに1価イオンを生成するために、マススペクトル上のm/zはポリマーイオンの質量となる。高質量分解能MALDI-TOFMSを使用すれば、 繰り返し単位や末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、またそれぞれの分子量分布を算出することができる。最近ではケンドリックマスディフェクト(KMD)法を用いることで、複雑な高質量分解能マススペクトルに含まれるポリマーシリーズを容易に可視化することができるようになった。ポリマーの末端基は、熱や光への曝露、酸やアルカリでの処理などにより変性を生じる。本アプリケーションノートでは、msRepeatFinderに実装されている差異解析機能を、紫外線照射により劣化させたポリエチレンテレフタレート(PET)の末端基解析に応用した事例を報告する。

Figure 1 PET structural formula

実験

サンプルには、市販のPETフィルムを2 枚用意した。一方は30分間紫外線照射を行い劣化させた。マトリックスには2',4',6'-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaTFA)を用いた。それぞれのフィルムは導電性テープでプレート上に固定し、その上からマトリックスおよびカチオン化剤の混合溶液を滴下乾燥させた。JMS-S3000 “SpiralTOF™-plus2.0”の SpiralTOF 正イオンモードを用い、各フィルムについて3回マススペクトルを取得し、msRepeatFinder V6を用いてKMD解析を行った。

結果

Figure 2にUV照射前(a)およびUV照射後30分(b)のマススペクトルを示す。両者ともに192u間隔のピーク群が観測されているものの、劣化前後で観測されているm/zが変化ししていることから末端基が変化していることがわかる。次に2つのマススペクトルのピークリストのKMDプロット(Base unit C10H8O4、divisor 191)(c)を重ね合わせたものを示す。青色はUV照射前、赤色はUV照射後のプロットである。KMDプロット上で、横軸と平行に並んでいるシリーズは、末端基の異なるポリマーシリーズとなる。KMDプロットでの直接の比較は難しいため、差異解析を行った。

Figure 2 Mass spectra of PET before(a) and after(b) UV degradation. The overlaid KMD plot is also shown (c)

差異解析では、UV照射前後のサンプルのマススペクトル(各3個)に含まれるピークについて、質量誤差が10mDa以内のピークを同一とみなした。Figure 3は、UV照射前後のマススペクトルを平均したものである。ここでは、マススペクトル全体のイオン強度が同一となるように規格化した。Figure4aには、差異解析結果のボルケーノプロットを示す。横軸はLog2 (UV照射前のイオン強度平均値/UV照射後のイオン強度平均値)であり、縦軸は -Log10 (p値)である。すなわち、右上青枠はUV照射前に特徴的なピーク群であり、左上赤枠はUV照射後に特徴的なピークである。Figure4bには、p値 > 0.05, Log2(UV照射前のイオン強度平均値/UV照射後のイオン強度平均値)の絶対値が1以上のものをKMDプロット(Base unit C10H8O4, divisor 191)として示した。青および水色は、UV照射前に特徴的なピークであり、赤はUV照射後に特徴的な成分である。このように差異解析を行うとUV照射前後に特徴的なピーク群を抽出することが可能である。なお、末端基の組成推定の結果、UV照射前の主成分は環状オリゴマーであり、UV照射後の主成分は両末端がカルボン酸のシリーズ(全て[M+Na]+)と推定された。

Figure 3 Averaged Mass spectra of PET before(blue) and after(red) UV degradation.

Figure 4 Volcano plot of the differential analysis (a) and KMD plot of the characteristic peaks in the mass spectra before and after UV irradiation. 

まとめ

本アプリケーションノートでは、msRepeatFinder の差異解析機能を用いて、UV照射前後のPETの末端基の違いを可視化できることを示した。JMS-S3000の高質量分解能により分離した末端基成分の違いを可視化でき、ポリマー解析において有用であることがわかる。

分野別ソリューション

関連製品

JMS-S3000 SpiralTOF™-plus 2.0マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計

msRepeatFinder ポリマー解析用ソフトウェア

閉じるボタン
注意アイコン

あなたは、医療関係者ですか?

いいえ(前の画面に戻る)

これ以降の製品情報ページは、医療関係者を対象としています。
一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承ください。

やさしい科学

主なJEOL製品の仕組みや応用について、
わかりやすく解説しています。

お問い合わせ

日本電子では、お客様に安心して製品をお使い頂くために、
様々なサポート体制でお客様をバックアップしております。お気軽にお問い合わせください。