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ブランクチューブ導入/電界イオン化法を用いたガスクロマトグラフ-高分解能質量分析計によるキャリアガスの種類別データ比較 [GC-TOFMS Application]

MSTips No.426

はじめに

ソフトイオン化法である電界イオン化(FI)を用いたガスクロマトグラフ-高分解能質量分析計(GC-HRMS)は、有機合成化合物の化学組成確認および分子量分布の確認に利用されている。また、ブランクチューブを介してGC注入口から質量分析計へサンプルを導入するブランクチューブ導入とFIの組み合わせは(ブランクチューブ導入/FI法)、通常のクロマトグラム分離を伴ったGC-MS測定に比べて短時間での測定が可能である1)。さらに、本測定はオートサンプラーを用いて自動化できることも利点である。
昨今、GCのキャリアガスとして一般的に使用されているヘリウムの供給は需要に追い付かないことがあり、ヘリウムの代わりに窒素もしくは水素が使用されている。なかでも窒素ガスは安定した供給に加え、安価かつ高安全性から優れた代替ガスといえる。
そこで本MSTipsでは、ヘリウムと窒素それぞれをキャリアガスとしたブランクチューブ導入/FI法により、有機合成化合物の化学組成確認および分子量分布の確認を行い、とくに窒素キャリアガスの有用性について報告する。

実験

1,1′-ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)フェロセン(上海阿拉丁生化科技股份有限公司)を有機合成化合物の化学組成確認を想定したサンプルとした。また、市販の機械油を分子量分布および化学組成の確認を想定したサンプルとした。1,1′-ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)フェロセンは1mg/mL、機械油は10mg/mL、いずれもヘキサン溶液に調製した。
測定条件の詳細をTable 1に示す。ブランクチューブの場合、最適線速度への設定は不要であり、キャリアガス流量はGCが圧力制御可能な範囲で、かつ質量分析計の真空度を高く保つことができる値に設定した。また、ドリフト補正用キャリブラントはサンプルが検出された直後にリザーバーより導入した。

Table 1. Measurement conditions

結果と考察

1,1′-ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)フェロセンのトータルイオンカレントクロマトグラム(TICC)とFIマススペクトルをFigure 1に示す。いずれのキャリアガスでも両方のサンプルから分子イオン[M]+・が確認された。1,1′-ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)フェロセンの分子イオンの同位体パターンについて、キャリアガスによる相違は確認されなかった。また、いずれのキャリアガスでも0.5分ほどでサンプル成分がブランクチューブを通過したため、測定時間は1分以内に終えることができた。
検出された分子イオンの精密質量と計算質量の誤差をTable 2に示す。その結果、キャリアガスによって発生する質量精度の差は確認されず、同等の結果が得られた。

Figure 1. TICCs and FI mass spectra of 1,1′-bis(dicyclohexylphosphino)ferrocene under helium and nitrogen carrier gas conditions

Figure 2. TICCs and FI mass spectra of machine oil using each helium and nitrogen carrier gas condition

Figure 3. Enlarged FI mass spectra shown in Figure 2
(Around m/z 335 ~ 342)

機械油のTICCとFIマススペクトルをFigure 2に示す。いずれのキャリアガスでも両方のサンプルから分子イオン[M]+・が確認された。機械油のFIマススペクトルからはm/z 188 ~ 540までの分子量分布をもつ炭化水素が検出されたほか、ジアルキルジチオリン酸亜鉛に帰属されるピークがm/z 546 ~ 616に検出された。分子量分布の低分子量側、最大強度、高分子量側、それぞれに該当するm/z 188, 294, 540の3点について、質量誤差をTable 2に示す。その結果は1,1′-ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)フェロセンと同様、キャリアガスによって発生する質量精度の差は確認されず、同等の結果が得られた。
Figure 2に示したFIマススペクトルのうちm/z 335 ~ 342付近およびm/z 338付近を拡大したものをFigure 3に示す。m/z 338近傍には0.5uの範囲内に3つのピークが確認された。この3つのピークは、高質量分解能により完全に質量分離されており、分子量分布と化学組成を正確に把握できた。

Table 2. Comparison of molecular ion mass errors between He and N2 carrier gas conditions

まとめ

本MSTipsではブランクチューブ導入/FI法を用いたGC-HRMS測定でのキャリアガスの相違点について、ヘリウムおよび窒素キャリアガスから得られた結果を比較した。質量精度と分子量分布、そして質量分離能はキャリアガスに依らない結果が得られた。そのため、窒素キャリアガスによる測定はコスト面で有用である。
また、ヘリウムおよび窒素のいずれのキャリアガスを用いた場合でも、クロマトグラム分離を必要としない化学組成確認や分子量分布の確認を目的とした測定に対して、本測定方法は汎用性の高い方法として期待される。

参考文献

1) Masaaki Ubukata, Akihiko Kusai, Junichi Osuga, Kazuo Tanaka, Takeo Kaneko, Kensei Kobayashi., J.Mass Spectrom. Soc. Jpn., 56(1), 13-19(2008).

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