サーマルデソープション-GC-MSによるポリプロピレン製品中の添加剤分析
MSTips No. 436
はじめに
サーマルデソープション (TD) は大気や室内空気などの気体サンプルを導入するためのGC前処理装置である。また固体や液体サンプルから発生するガスにも使用可能である。本MSTipsではTD-GC-MSの材料分析への応用例として、ポリプロピレン製品中の添加剤分析について紹介する。 Figure 1に固体サンプルから発生するガスを測定する際のTDの動作概要を示す。①サンプリング:サンプルを空のサンプルチューブに封入する。必要に応じてグラスウールを詰めてサンプルを固定する。②チューブデソープション:TD装置内でサンプルチューブを加熱し、サンプルから発生したガスをフォーカシングトラップで冷却捕集する。③トラップデソープション:フォーカシングトラップを高速昇温し、細いバンド幅でGCに導入する。
Figure 1 Overview of TD operation
実験
サンプルには市販のポリプロピレン製フィルム2種 (サンプルA、B)、各30 mgを用いた。添加剤を分析ターゲットとしているため、チューブデソープションは比較的低温の90°C 30 minとした。解析にはmsFineAnalysis iQ (JEOL) を用い、その差異分析機能によりそれぞれのサンプルから特徴的な添加剤を抽出した。Table 1にTD-GC-MSの測定条件を示す。
Table 1 Measurement conditions
TD conditions | |
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Thermal Desorption | TD-100xr (Markes International Ltd) |
Sample tube type | Empty |
Tube desorption | 90°C (30 min), 84 mL/min, Splitless |
Focusing trap type | General purpose Graphitized carbon (T11) |
Trap cooling | -30°C |
Trap desorption | 280°C (3 min), 46 mL/min, Split 22:1 |
Flow path temperature | 240°C |
GC conditions | |
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Gas Chromatograph | 8890A GC (Agilent Technologies) |
Column | HP-5MS (Agilent Technologies) 30 m x 0.25 mm, 0.25 μm |
Oven Temperature | 40°C (3 min)-10°C/min -320°C (6 min) |
Carrier flow | He, 2.0 mL/min |
MS conditions | |
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Spectrometer | JMS-Q1600GC (JEOL Ltd.) |
Ionization | EI+:70 eV, 50 μA |
Ion source temperature | 250°C |
Mass range | Scan, m/z 35-600 |
測定結果
Figure 2にTICクロマトグラムを示す。サンプルA、Bは同じポリプロピレン製であるが検出されたピークには大きな違いがあった。

Figure 2 TIC chromatograms
Figure 3にmsFineAnalysis iQの差異分析結果を示す。最大ピークとの強度比5%以上の11ピークからサンプルAで強いピークを2、サンプルBで強いピークを8抽出した。
Figure 3 Difference analysis result of msFineAnalysis iQ
Table 2に定性分析結果のピークリストを示す。背景色はサンプル間の強度差を示している。青はサンプルAで強い、赤はサンプルBに強い、白はサンプル間で差がない。またmsFineAnalysis iQでは定性分析の精度向上のため、実測マススペクトルから分子イオンを探索している。今回の結果では11ピークすべてで分子イオンを確認することができた。
Table 2 Peak list of qualitative analysis result
Figure 4にID004 (サンプルAの14.77 minに検出) およびID010 (サンプルBの19.18 minに検出) のマススペクトルを示す。定性分析の結果、前者はフェノール系酸化防止剤のButylated Hydroxytoluene (BHT) であった。後者は7,9-Di-tert-butyl-1-oxaspiro (4,5) deca-6,9-diene-2,8-dioneであり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤Pentaerythritol tetrakis [3-(3‘,5’-di-tert-butyl-4‘-hydroxyphenyl)propionate] の分解物であった。


Figure 4 Mass spectra of ID004 and ID010
まとめ
TD-100xrとJMS-Q1600GCによりプロプロピレン製品中の添加剤を感度良く分析することが可能である。またmsFineAnalysis iQでは複雑なクロマトグラムの中から特徴的な成分を容易に抽出し、高い精度で定性解析することが可能である。これら装置とソフトウェアは材料分析においても活躍が期待できる。