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高分解能MALDI-TOFMSとNMRを用いたEO-POコポリマーの構造解析 [MALDI Application]

MSTips No.423

エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO-PO)コポリマーは、 親水性のEO)と疎水性のPOを組み合わせた共重合型の非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)のひとつである。潤滑剤、消泡剤、乳化剤、可溶化剤、洗剤、帯電防止剤などの用途で様々な分野で使用されている。EO-POコポリマーの物性は、ランダム共重合やブロック共重合といったEO/POの配列順序、付加モル数などでコントロールされている。本アプリケーションノートでは、EO-POランダムコポリマー、ブロックコポリマーの構造解析をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOFMS)、溶液核磁気共鳴装置(NMR)で相補的に行ったので報告する。MALDIは代表的なソフトイオン化の1つであり、ポリマー由来のイオンが主に1価イオンで生成するために、マススペクトル上のm/zはポリマーイオンの質量となる。高質量分解能MALDI-TOFMSを使用すれば、繰り返し単位や末端基の組成の違いによるポリマーシリーズの識別が容易に可能となり、またそれぞれの分子量分布を算出することができる。最近ではケンドリックマスディフェクト(KMD)法を用いることで、複雑な高質量分解能マススペクトルに含まれるポリマーシリーズを容易に可視化することができるようになった。NMRからはMSでは解析が難しいコポリマーの詳細な構造情報の取得(ランダムやブロック構造)を期待できる。

実験

サンプルには, 市販のEO-POランダムコポリマー(EO-ran-PO, Mn~2500)および、PO-EO-POトリブロックコポリマー(PO-EO-PO, Mn~2700, EO 40%wt)を用いた。マトリックスにはDCTBを、カチオン化剤にはトリフルオロ酢酸ナトリウム(NaTFA)を用いた。マススペクトルはJMS-S3000 “SpiralTOF™-plus2.0”の SpiralTOF 正イオンモードを用いて取得した。それぞれのマススペクトルは、デアイソトープ処理を行い、msRepeatFinder V6を使用してKMD解析をおこなった。NMRの実験では, Chloroform-dに溶解した試料をJNM-ECZL 500R(日本電子製)にて13C NMRのスペクトルを測定した。

MALDI-TOFMSによる解析結果

Figure 1にEO-ran-PO(a)およびPO-EO-PO(b)のマススペクトルおよびKMDプロット(Base unit PO)(c)を示す。マススペクトルから両者ともに分子量3000弱を頂点とする分子量分布をもつことがわかる。しかしマススペクトルは非常に複雑であり。そこから両者の組成の違いを理解することは困難である。
そこで両者のデアイソトープ後のピークリストをKMDプロット(Base unit PO)で表示した. このプロットでは、POの分布は横軸と水平方向に、EOの分布は右斜め上方向に展開される。KMDプロットを確認すると、両者のEOとPOの分布は大きく異なっており。EO-ran-POはEOの分布がPOに比べて広く、PO-EO-POはEOとPOの分布が同程度であることが可視化できた。またPO-EO-POについては、POのホモポリマーが低分子領域に観測された。

 

Figure 1 Mass spectra of EO-ran-PO(a), PO-EO-PO(b) and KMD plot of their deisotoped peak lists (c).

 

しかしKMDプロットからは、それぞれの重合度の分布はわからない。そこでmsRepeatFinder V6の新機能である2元系コポリマーの探索機能を使用した。この機能は2つのモノマーの組成、両末端基の組成、付加イオンを指定することで、ピークリストから2元系コポリマーのピークを探索する機能である。ここでは、Table1に示す条件で探索を行った。結果の1つとして重合度プロットが表示される(Figure 2)。重合度プロットは2元系コポリマーの2つのモノマーの重合度の組み合わせをプロットしたものである。Figure 2(a), (b)はそれぞれEO-ran-PO, PO-EO-POの重合度プロットであり、横軸はPOの重合度、縦軸はEOの重合度, プロットの大きさはイオン強度を示している。重合度プロットの強度分布からEOとPOのモル比や重量比も算出可能である。今回のPO-EO-POのEOの重量比は40.1%と算出され、 カタログ値記載の40%とよく一致していることがわかった。13C NMRとMALDI-TOFMSから得られるEO/PO構成比の比較は後述する。

 

Table 1 Search condition for the two types of measured EO-PO copolymer

 

Figure 2 DP plots of EO-ran-PO(a) and PO-EO-PO(b).

13C NMRによる解析結果

Figure 3aにPO-EO-POの13C NMRスペクトルを示す. このスペクトルからはPOの連鎖構造に関する立体規則性の情報が多く得られた(Figure 3b)。

 

Figure 3 13C NMR spectrum with proton decoupling of PO-EO-PO/ Chloroform-d(a) and the stereoregularity information on the PO linkage structure(b).

 

次にPO-EO-POとEO-ran-POの13C NMRスペクトルの比較を行った結果をFigure4に示す. 図中に「↓」で示した2か所に大きな差異が観測された。①は連続するPOの立体規則性の違いを示すピークの減少、➁はEOに隣接するPOが増えたことによるピークの出現であり、EO-ran-POのランダム性を裏づける情報と考えられる. また右に末端基に関連するピークを拡大した。PO-EO-POは末端基にPOのみが存在ることを、EO-ran-POはEOとPOの両者が存在することを示唆する結果となり、それぞれのポリマーの構造を反映している。最後に、13C NMR定量測定によるEO/POのモル組成比をMALDI-TOFMSの結果と比較し、EO-ran-POはよい一致を示した。PO-EO-POはMALDI-TOFMSの結果が13C NMRよりもPOの比率が低くなっているが、これはMALDI-TOFMSのマススペクトルにおいてPOのホモポリマーが観測されており、その分が差し引かれていると考えると妥当な結果といえる。

 

Figure 4 Comparison between 13C NMR spectra with proton decoupling of PO-EO-PO/ Chloroform-d (blue), EO-ran-PO/ Chloroform-d (brown).

 

Table 2 The molar ratios of EO of the PO-EO-PO and EO-ran-PO calculated from DP plots.

まとめ

本アプリケーションノートでは, 2 種類のEO-POコポリマーについて、高分解能MALDI-TOFMSおよび13C NMRによる総合的な解析を実施した。MALDI-TOFMSでは、EO-POコポリマーの分子量分布を確認でき、EO/POの構成比率の算出が可能であった。またPO-EO-PO中にPOのオリゴマーを観測することも可能であり、これは13C NMR では識別ができないので重要な情報といえる。13C NMRのスペクトルからは, 主鎖構造の連鎖情報を得ることができた。そこからブロック性、ランダム性の違いや末端に存在するユニットの識別も可能であった。 これはMALDI-TOFMSでは得られない情報であり重要である。またMALDI-TOFMSと13C NMR から得られるEO/POの構成比率を比較した結果、良い一致を示すことが分かった。このようにポリマーの解析において、MALDI-TOFMS、NMRのそれぞれから得られる情報を組み合わせることが重要であることが分かった。

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