窒素キャリアガスを使用したPY/TD-GC-MS法によるフタル酸エステル類と臭素系難燃剤の分析
MSTips No.430

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
欧州(以下EU)における電気電子機器に係る特定有害物質の使用制限を定めたRoHS指令及び改正RoHS指令により、生産者は指定物質を含有しない生産活動が必要とされている。指定物質のうち、樹脂の可塑剤として使用されているフタル酸エステル類(DIBP, DBP, BBP, DEHP)と難燃剤として使用されているポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)とポリ臭化ビフェニル(PBB)についてはGC-MSを使用した分析が行われてるが、近年はキャリアガスのヘリウムの供給不安定化や価格高騰によって、分析業務が困難になる事例が発生している。
今回、ヘリウムに代わり、窒素をキャリアガスとして使用し、PY/TD-GC-MS法により、フタル酸エステル類とPBDE, PBBを同一条件で分析する方法について検討したので結果を報告する。
実験
サンプルは、臭素系難燃剤含有ポリプロピレン(ERM®-EC591)とフタル酸エステル含有PVC(NMIJ CRM 8152-a)を使用した。 ERM®-EC591は3~10臭素までのPBDEと、10臭素のPBBを含有しており、今回は4~10臭素までのPBDEと10臭素のPBBを測定対象とした。 NMIJ CRM 8152-a は、8種類のフタル酸エステルと1種類のアジピン酸エステルを含有しており、今回は改正RoHS指令の対象成分4種(DIBP, DBP, BBP, DEHP)とDNOPを測定対象とした。尚、測定に際しては、各樹脂を約0.5mg削り取り、Table 1に示した分析条件で測定を実施した。
Table 1. Measurement condition
結果
ERM®-EC591を測定した際の対象成分のSIMクロマトグラムをFigure 1、試行回数n=3で連続測定した際の対象成分のピーク面積値の秤量値に対する比(→重量面積比)と重量面積比の変動係数(coefficient of variation, C.V.)をTable 2に示した。同じく、NMIJ CRM 8152-aを測定した際の対象成分のSIMクロマトグラムをFigure 2、試行回数n=3で連続測定した際の対象成分の重量面積比とそのC.V.をTable 3に示した。
各サンプルのSIMクロマトグラムにおいて、対象成分のピークは十分な強度で検出が可能であり、秤量値で正規化された重量面積比のC.V.も対象成分全てについて20%を下回る結果が得られた。
結論
PY/TD-GC-MS法でRoHS指令の規制対象となっているフタル酸エステル類と臭素系難燃剤の分析を試みた結果、良好な検出感度と繰り返し精度を得ることができた。
Figure 1. SIM chromatograms of each component in ERM®-EC591
Table 2. Weight area ratio and C.V. of each component in ERM®-EC591
Figure 2. SIM chromatograms of each component in NMIJ CRM 8152-a
Table 3. Weight area ratio and C.V. of each component in NMIJ CRM 8152-a