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窒素および水素キャリアガスを使用したGC-MSによるアロマオイルの分析 [GC-QMS Application]

MSTips No.444

1. はじめに

GC-MSのキャリアガスとして利用されるヘリウムは、近年様々な事情により供給状態が不安定化しており、装置の安定稼働のためにはヘリウムの代替ガス利用の必要性が高まっている一方、代替ガスの使用においては、検出感度の低下やマススペクトルの変化によって解析精度が低下する事が懸念されている。
今回、窒素および水素をキャリアガスに使用したガスクロマトグラフ四重極質量分析計「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」を使用してアロマオイルを測定し、結果についてヘリウムをキャリアガスに使用した場合と比較し、窒素および水素をキャリアガスに使用した際の解析結果に及ぼす影響について評価したので報告する。

 

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
w/ Photoionization ion source

統合定性解析ソフトウェア
msFineAnalysis iQ

2. 実験

サンプルはラベンダーとクラリセージの香りを配合した市販のアロマオイルで、測定はヘリウムおよび窒素、水素をそれぞれキャリアガスとして接続したJMS-Q1600GCを使用した。GC-MSの測定条件をTable 1に示した。
JMS-Q1600GCは、アタッチメントのEI/PI共用イオン源を使用し、EI法の他にPI法でもデータ取得を行った。取得したデータについては通常のライブラリ検索による解析を行った他、統合定性解析ソフトウェア「msFineAnalysis iQ」を利用してPI法の結果を組み合わせた統合定性解析も実施した。

 

Table 1. Mesurement condition

 

測定条件のうち幾つかのパラメーターは、窒素あるいは水素に合わせて変更している。窒素を使用する場合、カラム流量はMS本体へのキャリアガスの導入量を下げるために0.7mL/minから0.5mL/minに変更し、スプリット比はヘリウムに比べて低下する感度を補完するために1/200から1/50に変更している。さらにScan範囲についても窒素を利用する際は、𝑚/𝑧 28に窒素イオンのピークが出るため、その影響を回避する目的で𝑚/𝑧 29~400から𝑚/𝑧 30~400に変更している。水素を使用する場合は、ヘリウムに比べて低下する感度を補完するためにヘリウムの値の+200Vから+300Vに変更している。

3. 結果及び考察

3.1. TICCの比較

各キャリアガスにおけるEI法のTICCをFigure 1~3に示した。各TICC上で溶出順が同一となる30ピークを解析対象とし、対象となるピークについては各TICC上でピークID([001]~[030])をアノテーションした。尚、ピークID[012]~[018]が溶出する範囲については、拡大したTICCも合わせてFigure 1~3に示した。
各キャリアガスにおけるTICCを比較した結果、全体としては同等の結果が得られているものの、一部拡大したピークID[012]~[018]が溶出する範囲については、ピークID[015]に相当するピークが、周辺ピークと比べてヘリウムと窒素ではほぼ同じ相対位置に確認できた一方、水素においては溶出位置がやや早く、ピークID[014]に近い位置で確認された。

 

Figure 1. TICC of aromatic oils when helium is used as carrier gas

 

Figure 2. TICC of aromatic oils when nitrogen is used as carrier gas

 

Figure 3. TICC of aromatic oils when hydrogen is used as carrier gas

3.2. ライブラリ検索結果及び統合定性解析結果の比較

各キャリアガスにおける解析対象のピーク ([001]~[030])について、通常のライブラリ検索の結果をTable2に示した。ライブラリ検索における類似性(→Match Factor, M.F.)について値が850以上の場合、M.F.の値を青色で示す一方で850以下についてはM.F.の値を黒色で示しつつ、セルの背景色を灰色で示した。
結果を比較すると、通常のライブラリ検索において、ヘリウムと窒素はほぼ同一の化合物名を示している一方、水素については全般的にM.F.が低い結果となっており、更に推定化合物名についてもヘリウムと異なる結果が示されている。

 

Table 2. Estimated compound names and M.F. by library search

  • …For results where the MF. is below 850, the cells are painted gray and the font color of the MF. is black.

 

msFineAnalysis iQによる統合定性解析の結果をTable3に示した。セルの背景色が青色の推定化合物は確度の高い定性解析結果で、表示している化合物名の可能性が高い一方、黄色の推定化合物は確度が中程度の定性解析結果で、表示している化合物ではなく、構造が近い他の化合物の可能性を示している。また、窒素・水素の統合定性解析の推定化合物名については、ヘリウムの推定化合物の異性体(鏡像異性体・構造異性体etc…)は青色の文字、全く異なる化合物は赤色の文字で示しました。
結果について、ヘリウムと窒素は、ライブラリ検索同様にほぼ同一の推定化合物名を示している一方、水素については多くの推定化合物についてヘリウムと異なる結果となった。

 

Table 3. Estimated compound names by integrated qualitative analysis

  • …Estimated compounds with blue cells are qualitative analysis results with high accuracy (→ highly likely to be the name of the indicated compound), and estimated compounds with yellow cells are qualitative analysis results with medium accuracy (→ not the indicated compound, but possibly another compound with a similar structure).

  • …In the integrated qualitative analysis of nitrogen and hydrogen, isomers (diastereomer, structural isomer etc...) of the estimated compound of helium are shown in blue font color, and different compounds are shown in red font color.

3.3. 定性解析結果の詳細について

定性解析結果より、ヘリウム・窒素と水素とでTICC上におけるピークの相対位置が大きく異なっていたピークID[015]の各キャリアガスにおけるEIマススペクトルとライブラリ検索における推定化合物のDB収録マススペクトルをFigure4に示した。

 

Figure 4.EI mass spectra in each carrier gas of peak ID 028 and DB-recorded mass spectra of the estimated compounds in the library search

 

ライブラリ検索の結果から、ピークID[15]については、ヘリウム及び窒素はCedrol、水素はCedreneと推定された。各化合物のNIST Mass Spectral DatabaseにおけるWAX系カラムにおけるExperimental Retention Index(→RI)の値はCedrolが2116、Cedreneが1577となっており、溶出順としては今回の測定結果と一致している。一般的に水素をキャリアガスに使用した場合、GCの注入口あるいはMSのイオン源内にて水素の還元作用によるマススペクトルの変化が起こると言われているが、該当ピークのようにマススペクトルに加えて、保持時間も変化している場合は、還元作用による変化は、イオン源より手前の注入口~カラム内にて起こっていると予想される。
次にピークID[028]の各キャリアガスにおけるEI及びPIマススペクトルとライブラリ検索における推定化合物のDB収録マススペクトルをFigure5に示した。

 

Figure 5.Mass spectra of EI and PI in each carrier gas of peak ID 028 and DB-recorded mass spectra of the estimated compounds in the library search

 

ピークID028はヘリウム及び窒素は「 7-Acetyl-6-ethyl-1,1,4,4-tetramethyltetralin」、水素は「Naphthalene, 6,7-diethyl-1,2,3,4-tetrahydro-1,1,4,4-tetramethyl-」と推定された。ピークID015と同じく、水素の還元作用によるマススペクトルの変化がピークID028についても起こっていると考えられるが、ピークID[015]と異なり保持時間は変化していないことから、該当化合物について水素による還元反応はイオン源内にて発生していると考えられる。尚、PIマススペクトルについては全てのキャリアガスにおいて同一であり、この結果よりPI法による測定は、水素による還元作用を殆ど受けないと考えられる。

3.4. 統合定性解析におけるピークID[028]の解析結果について

統合定性解析におけるピークID[028]の解析結果の詳細をFigure6に示した。ピークID[028]のライブラリー検索においてM.F.が最も高い第1候補の推定化合物は「Naphthalene, 6,7-diethyl-1,2,3,4-tetrahydro-1,1,4,4-tetramethyl-」となっているが、PI法の測定結果において分子イオン𝑚/𝑧 258が検出されており、この結果と第1候補が一致しないため、統合定性解析における推定化合物としては、ライブラリ検索における第2候補の「7-Acetyl-6-ethyl-1,1,4,4-tetramethyltetralin」が選択されている。

 

Figure 6. Analysis Results for Peak ID [028] in the Integrated Qualitative Analysis

4.結論

窒素および水素をキャリアガスに使用したガスクロマトグラフ四重極質量分析計「JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta」を使用してアロマオイルを測定し、窒素および水素をキャリアガスに使用した際の解析結果に及ぼす影響について評価した結果、定性解析において得られる結果のヘリウムとの同一性を最も重視する場合、代替キャリアガスとしての第1選択肢は窒素と言える。
一方、水素を代替キャリアガスとして利用する場合は、イオン源内における還元作用に起因するマススペクトルの変化あるいは、イオン源以前のカラム・注入口内における還元作用に起因する保持時間とマススペクトルの変化に注意する必要があるため、定性解析における代替キャリアガスとしての使用は推奨されないが、還元作用によるマススペクトルの変化については、従来のライブラリ検索によるM.F.だけに依存しない統合定性解析ソフトウェア msFineAnalysis iQを利用する事で、ある程度は対応することが可能である。

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