1,1,1,2-テトラフルオロエタンのGC/EI法およびGC/CI法を用いた統合定性解析事例
MSTips No. 454
はじめに
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)は、主に家庭用冷媒および自動車用エアコンの高温冷媒として使用される代表的な不燃性ガスであり、代替フロンガスとして使用されるハイドロフルオロカーボンのひとつである。 基本的に質量分析において、副生成物や不純物として存在する未知化合物の同定を行う場合、分子量情報が非常に有用であるが、このハイドロフルオロカーボンをはじめとするフッ素系化合物は、GC/MSで分析される際、一般的なEI法では分子イオンが検出されにくい傾向がある。そこで、今回ソフトイオン化法として、 化学イオン化法(CI法)と低イオン化電圧法を用いてHFC-134aを分析した例を紹介する。
測定条件
試料には、市販のカーエアコン用冷媒の一種であるHFC-134aを用いた。測定にはGC-QMS (JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta, 日本電子製) を用いた。
試料は、ガスタイトシリンジを用いて100µLを採取し、直接GC注入口に導入した。 イオン化は、従来のハードイオン化法であるEI法に対して、ポジティブ/ネガティブ‐CI法、及び低イオン化電圧法の3種類のソフトイオン化法を用いた。GC/MS測定の詳細条件をTable 1に示す。

JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
Table 1 Measurement condition


結果と考察
Fig.1に、EI法によるマススペクトルをライブラリー検索した結果を示した。その結果、類似度=895で、HFC-134aである1,1,1,2-テトラフルオロエタンがヒットしたが、分子イオンは、ほとんど検出されなかった。
次に、3種類のソフトイオン化法によって測定した際のマススペクトルもFig.2に示した。
まず、低イオン化電圧法では、分子イオンであるm/z 102のシグナルが、小さいながらも明瞭に検出できた。
一方CI法では、Pos-CI法において、フッ素の脱離イオン([M-F]+)であるm/z 83がベースピークとして明瞭に検出された。一方Neg-CI法では、フッ素の付加イオン([M+F]-)であるm/z 121がベースピークとして検出された。
Figure 1 Library search results of HFC-134a mass spectrum using EI method
Figure 2 Mass spectra of HFC-134a by each ionization method
次に、EI法と低イオン化電圧法による各マススペクトルを用いて、msFineAnalysis iQによる統合定性解析を行った結果をFig.3に示した。 Fig.1同様、検索結果1位にヒットしており、さらに分子量が確認され、同位体マッチングの評価も0.93と良好な結果となった。
Figure 3 Integrated qualitative analysis results of HFC-134a using msFineAnalysis iQ
まとめ
従来、フッ素系化合物は、GC/MSで分析される際、EI法では分子イオンが検出されにくい傾向があるが、低イオン化電圧法では、分子イオンの検出量が向上し、CI法では、ポジティブモードにおいてフッ素の脱離イオン、一方のネガティブモードにおいては、フッ素の付加イオンがそれぞれ明瞭に検出される傾向が見られた。そして、EI法のみの装置構成でも、ソフトイオン化法として低イオン化電圧法を用いることにより、分子イオン情報が得られ、 msFineAnalysis iQによる統合定性解析が可能であることが確認された。