PY-GC/MS法によるデクロランプラスおよびUV-328のスクリーニング分析
MSTips No. 461
1. 概要

ガスクロマトグラフ質量分析計
JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zeta
デクロランプラスは塩素系難燃剤として電気・電子機器や繊維製品に、UV-328は紫外線吸収剤として塗料やプラスチック製品などに、添加剤として広く使用される。しかし、これらの2成分は難分解性かつ高濃縮性に加えて長期毒性を有し人体への影響が懸念されていることから、令和5年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)締約国会議にて規制対象となった。同種の規制物質において、その含有/非含有を判断するスクリーニング法としては、 IEC 62321-8に定められているフタル酸エステル類のPY-GC/MS法(MSTips No.290, 298)がある。本法は、試料の前処理なしで直接分析が可能な手法である。
今回は、JMS-Q1600GC UltraQuad™ SQ-Zetaを用いてPY(PY-3030D, フロンティアラボ製)-GC/MS法によりデクロランプラスおよびUV-328の分析を試みた。その結果、スクリーニング分析が十分可能であると考えられる、良好な再現性と検出感度を得られたので報告する。
2. 実験
デクロランプラスおよびUV-328の検量線用標準試料はMSTips No.290と同様に、IEC 62321-8に記載されている樹脂マトリックス溶液と混合液体標準試料を使用する方法で調製した。樹脂マトリックスとしてABSを用いた。混合液体標準試料(添加量5 µL)の濃度を変え、デクロランプラスとUV-328の樹脂中濃度100 ppmから2000 ppmまでの検量線を作成し、下限濃度(100 ppm)における再現性および、検出下限値を算出した。また、ABSに加えポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)を用いて調製した樹脂中濃度1000 ppmの試料を測定し、作成した検量線を用いて得られた定量値から回収率を評価した。実サンプルとして、絶縁用粘着テープおよび衝撃吸収ゲルシートを用いた。サンプルをカッターで切削し、直接エコカップに入れて測定した。測定に使用した機器の条件をTable 1に示した。
Table 1. Measurement Condition
3. 測定結果
3.1 クロマトグラムおよび検量線
デクロランプラスおよびUV-328のABS中濃度100 ppmにおけるSIMクロマトグラムをFigure 1に、デクロランプラスおよびUV-328のABS中濃度が100、200、500、1000、2000 ppmの擬似標準試料を測定し作成した検量線をFigure 2に示す。尚、デクロランプラスは異性体である2本のピーク(syn-DP, anti-DP)の面積値を合算した。検量線の直線性については、決定係数が0.999以上と良好な結果が得られた。



Figure 1. SIM chromatograms of each compound at 100 ppm
Figure 2. Calibration curve of each compound
3.2 再現性および検出下限値
検量線下限濃度(100 ppm)を試行回数n=8で測定して得た定量値の相対標準偏差(%RSD)および算出された検出下限値(IDL)をTable 2に示す。2つの成分において、相対標準偏差(%RSD)は5 %以下であり、検出下限値(IDL)は10 ppm以下と良好な結果が得られた。尚、IDLは、t検定のt値を用いて計算した。
Table 2. Relative standard deviation of each compound and Instrument Detection Limit of each compound
3.3 各種の樹脂マトリックスにおける回収率の評価
デクロランプラスおよびUV-328のABS中濃度1000 ppmにおけるTICCクロマトグラムをFigure 3に、デクロランプラスおよびUV-328の樹脂中(ABS, PS, PC)濃度1000 ppmの試料を試行回数n=5で測定して得た定量値から評価した回収率をTable 3に示す。平均回収率はデクロランプラスで88~102 %、UV-328で87~101 %であり、スクリーニング分析における十分な定量精度を示した。
Figure 3. TICC chromatograms of each compound at 1000 ppm in ABS matrix sample
Table 3. Recovery rates in each matrix sample
3.4 実サンプルの測定
実サンプルはそれぞれ試行回数n=5で測定した。絶縁用粘着テープから得られたデクロランプラスおよび衝撃吸収ゲルシートから得られたUV-328のSIMクロマトグラムをFigure 4に、検量線から算出された定量値の相対標準偏差(%RSD)をTable 4に示す。相対標準偏差(%RSD)は、約85~1.3×10^5 ppmの広い濃度範囲で10 %以下であり、スクリーニング分析における十分な定量精度を示した。



Figure 4. SIM chromatograms of each compound at real sample
Table 4. Relative standard deviation of each compound
まとめ
PY-GC/MS法により、POPs条約規制対象成分であるデクロランプラスおよびUV-328を分析した。検量線の直線性と検量線下限濃度における再現性の結果は良好であり、スクリーニング分析が十分に可能であることを確認した。また、各種の樹脂マトリックスを用いた試料において良好な回収率が得られており、実サンプルへの適用も十分に可能であると考えられる。