JMS-T2000GCのブランクチューブ-FI法とGC-EI/FI法を組み合わせた熱分解オイルの迅速分析
MSTips No. 468
はじめに
ブランクチューブ-FI (Field Ionization) 法ではサンプルをGC注入口に導入し、ブランクチューブを通過させた後、ソフトイオン化のFI法で検出する。一分以下の測定で分子イオンを検出することが可能である。オイルのような炭化水素の混合物を測定した際は、複数の分子イオンピークを含んだ複雑なマススペクトルが得られる。この場合でもKMD解析を用いることで容易に定性情報を取得可能である。主成分である炭化水素由来のイオンピークに対しては炭素数とDBE (=不飽和度) によるで分類が可能であり、それ以外のイオンピークに対しては組成推定による解析が可能である。ブランクチューブ-FI法のみでは構造式の決定までは困難であるが、GC-EI/FI法を併用することでこれらの情報を効率的に取得可能である。
本MSTipsでは上記手法による熱分解オイルの分析例を紹介する。熱分解オイルは廃棄されたプラスチックやゴム製品などから得られるオイルである。石油代替燃料やリサイクルプラスチックの原料に利用され、サーキュラーエコノミーに関わる重要な技術の一つである。

Figure 1 Schematic of blank tube-FI method
実験
サンプルには市販されている廃プラスチック由来の熱分解オイルを用いた。このサンプルをJMS-T2000GCのブランクチューブFI法で測定し、msRepeatFinderを用いて解析した。また同じサンプルをGC-EI/FI法でも測定し、msFineAnalysis AIを用いて解析した。
Table 1 Measurement conditions
GC-EI | GC-FI | Blank tube-FI | |
---|---|---|---|
Sample | |||
Injection volume | 1 μL | ||
GC conditions | |||
Column | ZB-5MS, 60 m length, 0.25 mm i.d., 0.25 μm thickness (Phenomenex, Inc.) |
Blank tube, 5 m length, 0.25 mm i.d. | |
Split | 20:1 | ||
Inlet temperature | 300°C | ||
Oven temperature | 40°C (1 min hold) - 5°C/min - 300°C (30 min hold) | 300°C (isothermal) | |
Carrier gas | He, 1 mL/min | He, 3 mL/min | |
MS conditions | |||
Ionization | EI (70 eV) | FI | |
Mass range | m/z 35-800 |
測定結果
Figure 2にブランクチューブ-FI法のTICクロマトグラムおよびマススペクトルを示す。GC注入口に導入されたサンプルは10秒程度でMSに到達した。クロマトグラム分離がなくソフトイオン化法であるため、一つのマススペクトル中に複数の分子イオンが検出された。
Figure 2 TIC chromatogram and mass spectrum of blank tube-FI
Figure 3に上記マススペクトルから作成したKMDプロットを示す。msRepeatFinderのバージョン7では、リストに登録されている組成式のイオンピークを探索する新機能が追加された。この機能を使用すれば、炭化水素を青/緑、添加剤を赤、その他を黒というように自動でピークを検出しグループ分けすることが可能である。今回の結果からはリン系酸化防止剤 (CAS 31570-04-4) の酸化物が添加剤として検出された。
Figure 3 KMD plot of all components
Figure 4に炭化水素の分子イオンM+・のみ表示したKMDプロットを示す。各イオンピークは横軸が炭素数、縦軸がDBE (=不飽和度) となるようにプロットされており、オイルの特徴を視覚化して評価することが可能となる。また強度比や平均分子量等を算出することで、オイルの特徴を定量的に評価することも可能である。
Figure 4 KMD plot of the M+・ of hydrocarbons only
Figure 5に炭化水素以外のイオンピークのみ表示したKMDプロットを示す。各ピークは精密質量数の情報を持っており、組成推定が可能である。今回の結果からは酸素、窒素化合物に加えオイルの品質に影響する硫黄化合物も検出された。
Figure 5 KMD plot of "others" only
Figure 6にmsFineAnalysis AIを用いたGC-EI/FI法の分析結果を、Figure 7にその結果得られた構造式を記入したKMDプロットを示す。最大強度の成分はポリエチレンテレフタレート (PET) などの熱分解物である安息香酸 (C7H6O2) であった。硫黄化合物はその構造式からポリフェニレンサルファイド (PPS) の熱分解物と推測された。なお同様の手順で一つ一つの炭化水素の構造式を確認することも可能である。
Figure 6 GC-EI/FI analysis result using msFineAnalysis AI
Figure 7 KMD plot with structural formulas
まとめ
ブランクチューブ-FI法とKMD解析により熱分解オイルの主成分である炭化水素を視覚的かつ定量的に評価することができた。さらにリン系酸化防止剤や、オイルの品質に影響する硫黄化合物を検出することができ、GC-EI/FI法の分析結果と照らし合わせることでその構造式まで確認することができた。