GC-TOFMSとAI構造解析によるスペアミント精油の香気成分解析
MSTips No. 469
はじめに
スペアミントは、シソ科ハッカ属の植物である。古くからハーブの1つとして知られており、甘く爽やかな香りがする。料理やハーブティー、デザートなどに生の葉がよく用いられており、歯磨き粉やチューイングガムのフレーバーとしても多用されている。スペアミントの香りにはアロマテラピー効果があるので、疲れた心身に活力を与え気分をリフレッシュさせたい時、頭をすっきりとさせたい時などに、おすすめの香りである。
本MSTipsでは、スペアミント精油の香気成分について、ガスクロマトグラフ-飛行時間質量分析法(GC-TOFMS)での分析結果を紹介する。精油は、植物の花、葉、種子などから抽出した天然の素材なので、NISTデータベース未登録物質が含まれていることが予想されるため、AI構造解析が可能なJMS-T2000GCとmsFineAnalysis AIを分析に用いた。
実験
サンプルには、市販のスペアミント精油をヘキサン溶液で1/2に希釈し用いた。GC-MS測定には JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha (日本電子製)を用いた(Figure 1)。MSのイオン源にはEI/FI/FD共用イオン源を使用し、イオン化法はEI法およびソフトイオン化法としてFI法を用いた。得られたデータはmsFineAnalysis AI (日本電子製)にて解析した。その他、詳細な測定条件はTable1に示す。
Figure 1 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha
Table 1 Measurement conditions
測定結果
Figure 2に、スペアミント精油のTICクロマトグラムを示す。高さ閾値0.015%以上として37成分が検出された。メイン成分として甘く爽やかな香りのするCarvoneが検出され、甘酸っぱく爽やかな香りのLimoneneが次いで強く検出された。
Figure 2 TIC chromatograms of spearmint essential oil
Table 2に、スペアミント精油から検出された37の香気成分の統合解析結果一覧を示す。確認された37成分のうち6成分はNISTデータベース未登録であったがAI構造解析により化合物名と構造式を導出することができた。 また、Figure 3に、2番目に強く確認されたLimonene付近を拡大したTICCを示す。デコンボリューションピーク検出により、低強度の成分でも共溶出成分として識別され検出された。この共溶出成分ID010も、NISTライブラリーデータベースに未登録の未知物質であったが、以下に示したようにAI構造解析機能により構造式候補を算出することができた。
Table 2 List of integrated analysis results of spearmint essential oil components
Figure 3 TIC chromatograms (left), mass spectrum (center), AI structural analysis results summary (right) of spearmint essential oil components
まとめ
JMS-T20000GCを用いたGC-TOFMSとmsFineAnalysis AIにより、スペアミント精油中の香気成分解析を行った。msFineAnalysis AIのデコンボリューションピーク検出により共溶出成分も見逃すことなく検出できた。また、検出された成分にはNISTデータベース未登録物質もあったがAI構造解析により化合物名と構造式を導出することができた。本装置と本ソフトウェアがGC-MSによる天然由来サンプルの香気成分中の未知物質解析に有効であることが確認できた。