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新型FIエミッターにおけるGC/FI測定の感度向上について

MSTips No. 476

はじめに

電界イオン化(Field Ionization: FI)法は、高電界中において気体試料の電子がエミッターに移動(トンネル効果)することでイオン化する手法であり、フラグメンテーションが発生しにくいソフトなイオン化法の1つとなる。電子イオン化(Electron Ionization: EI)法では、分子イオンが検出できない試料でもFI法では分子イオンが検出でき、分子量情報を得ることができるので、定性解析に有効なイオン化法となる。
FI法の検出感度はエミッターを構成するワイヤーおよびワイヤー表面に生成するウィスカーの形状に大きく依存する。今回、検出感度を向上させるためにワイヤーおよびウィスカーの生成条件をFI法に最適化したエミッターを開発した。従来のエミッターと比較して、本エミッターの有効性について報告する。

実験

エミッターの先端は、ワイヤーとその上に無数に生成した針状のウィスカーとで構成される。従来エミッターは、ワイヤー径が10µm、ウィスカー長が数十µm程度である。これは、電界脱離イオン化(Field Desorption: FD)法での使用を考慮して、エミッターに塗布した試料が保持されやすい設計となっている。一方、FI法ではエミッターへの試料の吸着はクロマトグラムピークのテーリングやそれを防ぐための焼出し電流値の上昇による感度低下を招く。今回開発したエミッターは、ワイヤー径を5µmに細くして、ウィスカー長を従来エミッターより短く調整することで、試料の吸着を抑えた設計とした。テストサンプルはn-ヘキサデカン(Sigma Aldrich製 #55209)を用いてヘキサンで100pg/µLに調製して使用した。質量分析計は、GC-TOFMS(日本電子製 JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha)、イオン源にはEI/FI/FD共用イオン源を使用しFI法でそれぞれのエミッターを用いて測定を実施した。その他詳細な測定条件はTable1に示す。

 

 

JMS-T2000GC AccuTOF™ GC-Alpha

EI/FI/FD combination ion source

Table 1 Measurement condition

 

Emitter
 Conventional Emitter: P/N 82144947 FD/FI EMITTER
 New FI Emitter: P/N 782323928 FI EMITTER

結果と考察

以下に、従来エミッターと今回開発したFIエミッターを用いたヘキサデカン(C16H34, MW226)100pgのFI測定結果を示す。
Figure 1はヘキサデカンの分子イオン(m/z226)の抽出イオンクロマトグラム(EIC)である。従来エミッターとFIエミッター共に良好なピーク形状となった。感度については、従来エミッターではS/N 48.6、FIエミッターではS/N 502.6と約10倍感度が向上する結果となった。この要因としては、FIエミッターではワイヤー径を1/2に細くしたことでウィスカー先端の電場が上昇することでより多くの試料成分をイオン化することが可能となる点、また、ウィスカー長を短くしたことでエミッターへの試料成分の吸着が減るため、焼出条件を電流値:10mA, 時間:6msと従来エミッターの焼出条件(電流:40mA,時間:30ms)に対して単位時間当たりの電気量を1/20に抑えることができた点にあると考えられる。
Figure 2はヘキサデカンのマススペクトルである。従来エミッターとFIエミッター共に分子イオン(M+)が明瞭に観測された。しかし、従来エミッターではm/z227に観測されるべき同位体イオン([M+1]+)が観測されなかった。一方、FIエミッターでは[M+1]+イオンが明瞭に観測された。定性解析を行う上では分子イオンの感度も重要であるが、同位体イオンが感度よく検出されることで同位体マッチングによる分子組成の絞り込みが可能となる。これにより確度の高い定性解析を実施することが可能となる。

 

Figure 1 Extracted ion chromatograms of Hexadecane

Figure 2 Mass spectra of Hexadecane

まとめ

本MSTipsでは、FI法に最適化したFIエミッターによる感度向上効果について紹介した。FI法において、本エミッターを使用することで従来エミッターでは感度不足で解析困難であった試料に対しても、分子イオンの確認・精密質量解析が可能となる。今後、本エミッターがGC-MSのFI法による定性解析において活用されることが期待される。従来エミッターについては、FD法を主としてFI法でも使用可能なエミッターとして今後も引き続きの活用が期待される。

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